ステージ!/贈るなら、ありったけの宝石を

鐘屋横丁

     

「おつかれっしたー」
「ふー、やれやれ」
 張りつめていた空気が、ふわりと緩む。
 周りが、セットの後片付けに移る。チカゲはほうっ、とひとつ息をついて、大きく伸びをした。
「お疲れ様でした、サカキさん。いやあー、改めて見るときれいなお顔ですねぇ。全然緊張してなかったし、俳優とか出来るんじゃないですか?」
「俳……、いくらなんでもお世辞が過ぎますよ。考えたこともないです」
「そうですか? いけると思うんだけどな。ま、お疲れ様でした。いつかまた一緒に仕事しましょ!」
「ええ、お疲れ様でした。それでは」
 そうして、全てが終わった。
 控え室に戻り、荷物と上着を取り、特に寄り道もせずに帰った。
 ……どうも、妙な気分になる仕事だった。終わってみると存外に悪くないが、放送を見たいという気持ちにはならない。何だか、むず痒いのだ。
 頭に女と、マイムの姿を思い浮かべる。あいつらは、きっと喜ぶだろう。収録があった事は、隠さず素直に言おうと思った。


~ 8/12 ~