ステージ!/贈るなら、ありったけの宝石を

鐘屋横丁

     

 観覧車は頂上に近づいていた。夜景は、最も遠くまで見えている。
「あ、テレビ塔だ。わたし、あれを貰おうかな。とびきり光ってるし」
 女はまた、窓の外を見てはしゃいでいる。
「そういえば、そろそろ終わっちゃう頃だね、テレビ。みんな、きっと見てるよ」
「折角忘れようとしていたんだが、やれやれ」
「見なくていいの?」
「ああ。あそこに映る、あんなものは、俺じゃない。俺じゃないものに、興味は無い」
「恥ずかしい?」
「……少し、な」
「だから、逃げて来た」
「うむ……」
「わたしも、皆で見たかったけどな」
「付き合わせて、すまないな。ありがとう」
「いえいえ。バッチリ録画してあるし! こんな素敵な所に連れて来てくれて、こちらこそありがとうございます」
 女が頭を下げ、にっと笑う。
 観覧車の中央にある時計が、時を刻む。時間に合わせて、イルミネーションが観覧車に様々な模様を映し出す。頂上は過ぎた。あとは、下るだけだ。
「わあ、イルミネーションもまた綺麗ね」
「ああ。夜に来て、良かったな」
「この後は、どうするの」
「……何も考えていない」
 足元を、見つめた。走り回ったからか、少し靴が汚れている。帰ったら、手入れをしなくてはならない。
「戻らない? 戻る頃にはきっともう、お祭り騒ぎも終わってるよ」
「む……」
「大丈夫だって。みんな喜ぶと思うよ」
「そうか。改めて考えると、随分と大人気ない事をしてしまったな」
 すこし、反省した。自分でない顔をして、自分の話さない事を話している自分を見たくなかっただけなのだ。マイム辺りに茶化されるのも、嫌だった。
「ふふっ。そういうところも、ボスだから。みんな好きだよ、きっと」
「そういうものだろうか」
「そういうものです!」
 女が、歯を見せて笑う。そういうものだと言うのなら、そうなのかもしれない。


~ 5/12 ~