ステージ!/贈るなら、ありったけの宝石を

鐘屋横丁

     

「綺麗」
 女が、ぽつりと呟く。
「ああ。綺麗だな」
「夜の観覧車って、こんなに良いものだったんだ。知らなかった」
「高さがある分、遠くまで見渡せるからな」
「綺麗。それで、この観覧車も夜景の一部になってるのが、なんだか不思議」
 女は、外の景色に夢中だ。窓にかぶりついて、夜景を眺めている。
「……この夜景も、いつか世界を手に入れた暁には、全てが我らのものだ」
「……はい、ボス」
「この夜景の何処か、好きな部分をお前にやろう。
 今のうちから、考えておくといい」
「わあ、素敵ね。なんだか、宝石みたいに思えて来た」
「……宝石か。なるほど」
「うん。キラキラ輝いて、自分のものになるんでしょ」
「宝石。……俺にとって、きっとそれは、キミだ」
「……」
「磨けば光る。美しく輝く。そばに、置くことが出来る。時には握りしめて、隠すことも」
 女の手を取る。握りしめた。女も、笑顔で握り返してくる。
「不思議だ。こんなにいつも側にいるのに、他の奴の目に晒したくない気分になる。恥ずかしさとは、また違う」
「……ジムリーダーに見つかった事? もっと、隠れて会った方がいいのかな」
「いいや。そういう訳ではない。キミは、堂々として居て構わない。独占欲か、所有欲か。俺が勝手に悩んでいるだけだ。
 以前は気にするものかと思っていたが、他人の視線が気になる時がある……」
 女が、立ち上がってこちらに歩いて来た。顔を、寄せてくる。受け入れた。唇が、重なり合う。柔らかな感触をしばし味わって、離した。
「今、キスしたいって思ってたでしょ」
「ああ。よく分かったな」
「難しい事を話してる時は、大体そうかなって。分かってきた」
 女が、悪戯っぽくにやりと笑った。
「ふふ。やはり、キミは最高だ」


~ 4/12 ~