ステージ!/贈るなら、ありったけの宝石を

鐘屋横丁

     

 辺りは、ちょうど暗くなった頃だった。ゲートを通り、ヤマブキシティを通過して、クチバに着いた。
「わあ、綺麗」
 港は多くのライトで照らされていた。小さな波が光を持って、寄せては返す。遠くに見える、向こう岸の夜景が水面に映り、輝きながら揺らめいている。生温い風が吹いてきた。ほのかに、磯の香りがする。ベンチに座り、しばし風景を眺めた。同じような目的であろうカップルが、何組か周りに居た。
「気に入ったかな」
「うん、夜にクチバに来たの初めて。いい雰囲気だね」
「あそこに、観覧車が見えるだろう。乗ってみるか?」
「乗りたい!」

 クチバの小さな遊園地の中には、巨大な観覧車がある。派手なイルミネーション演出で光り輝き、遠くからでもよく見える。
「カントーの空中散歩をお楽しみ下さい、観覧車ロケット・クロック96……。あれ、ロケットってもしかして」
「そうだ。我々の所有物だな。観覧車をアミューズメント部が買収して、周りに後から遊園地を作ったんだ」
「す、すごい……」
「今やこれも、大事な資金源だ。ふふ。しかし、実際に乗るのは初めてだな。楽しみだ」
「うん。わたしは観覧車、乗った事ないや。楽しみ」
 少し、並んで待った。辺りを見回すと、カップルが多い。皆、夜景を目当てに来ているのだろう。昼間もまずまず客を集めているが、夜の方が人気だと聞いている。
「2名様ですね。快適な空の旅をどうぞ! いってらっしゃいませ!」
 愛想の良いスタッフに送り出されて、観覧車に乗った。
 観覧車は、ゆっくりと動く。夜空の中を、高く高く登っていく。女と、向き合って座った。窓の外の景色は、高く登るにつれ、夜の闇を照らす小さな光をどんどん増やしていく。


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