ステージ!/贈るなら、ありったけの宝石を

鐘屋横丁

     

 放送時間は、間もなくだ。夕方はとっくに過ぎているが、多くの団員がまだアジトの中をうろうろしている。
 部屋の扉が開いた。団員が1人、こちらを向く。
「失礼します、マイム様! モニターの配線が上手くいかなくて……見て頂けますか?」
「まあ、分かりました。行きましょう」
 マイムが部屋を出て行った。廊下に響く足音が遠ざかっていき、やがて聞こえなくなった。しばらくは戻って来ないだろう。
「……頃合いか」
「ん? 何?」
「逃げるぞ。さあ早く」
「えっ?」
「来い。一緒に」
 動揺する女の手を引いて、走って部屋を出た。廊下に靴音がふたり分、軽快に響き渡る。女は困惑しながらも、手を離さないでついてくる。
「サカキ様?」
「サカキ様! どちらへ……」
 背後に呼ぶ声が聞こえるが、小さなものだ。追ってくる様子はない。階段を駆け上がり、そのまま、一気に地上へと出た。ゲームコーナーの中も、2人で駆け抜ける。外に出た。
 何だか、子供のする悪戯が成功したような気分だった。スカッとして、どこか清々しい。悪くない気分だ。
「さて。今日はとことん逃げるぞ。
 そうだな、クチバに行こうか。夜の港は、きっと気にいる」
 女はまだ、ぽかんとしている。
「どうした。一緒に行くんだ、キミも」
「うん。行きます。あんな事するんだって、びっくりしちゃった。ちょっと、楽しかった」
 そう言うと、にこりと笑った。
「俺だって、逃げたくなる時はあるさ。さあ行こう」


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