それから、少し時が経った。特に何も起きないままの、毎日が過ぎた。雨の日もあれば、暑い日もあった。大きな計画も無く、研究所に異常も無かった。
自分にとっては、些事だ。そのまま、誰もが忘れてしまえばいいと思ったが、そう甘くはなかった。
……テレビの放送日だ。
「さて、最強のジムリーダーと噂されているサカキさんですが、普段はどのようにポケモンを育てていらっしゃるのでしょうか」
チカゲがこちらを向く。
「そんなに、特別な事はしてないですよ。軽いトレーニングをして、ジムトレーナー達と練習試合をする。その繰り返しです」
笑顔で話す。全ては、台本通りだ。
「という事は、強さの秘密はジムトレーナーさん達にもある!?」
「そうかもしれませんね。彼らに負けないようにしているから、自然とレベルの高い環境でバトルが出来ているのかも」
「素晴らしい! 最強のジムリーダーなんて言うから、どんな人が来るのかと思ってましたが、とても謙虚で紳士な方で安心しました」
「ははは、あまり迫力が無いですかね。最強だなんて、本当にたまたまですよ。こんな自分について来てくれてる、ジムトレーナーの皆のお陰です」
笑顔で答える。
謙虚で、紳士か。笑わせてくれる。こんな自分の姿を見て、舐めてかかってくる挑戦者がこの後どれ程来るだろうか。少しは骨のある奴が居れば良いのだが。
「いよいよ、今日ですね。準備はバッチリですよ!
一番大きなモニターでテレビを見れるようにします。皆で見れるように、大部屋を準備しました。サイリウムは緑で統一させます」
マイムは、楽しみで仕方がないという顔をしている。
「楽しみだね、ボス」
女も、似たような顔だ。他の団員達も今日は、どこか浮かれている。気乗りしないのは自分だけのようだ。
「まあな」
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