一通りの指導を終えた頃には、やはり夕方になっていた。タマムシに戻り、最奥の部屋へ急ぐ。今日は、女の顔が早く見たかった。
「お帰りなさいませ、サカキ様」
マイムがにこりと微笑む。女は、まだ戻っていないようだ。
「……なんだ。お前だけか」
「まあ! ヒドい! いくら教官殿と早く愛を深めたいからって、あんまりですよっ。
はい、こちら本日上がって来た報告書になります。研究所からもレポート来てますよ。目を通して下さい」
「ご苦労。悪かったよ。そう怒るな」
ソファに座って、煙草を咥えた。マイムが、慣れた仕草で火をつける。
「会議が余程つまらなかったと見えますね。教官殿に、早く会いたいくらいに」
「そんな所だ。次からはお前に変身してもらって、代理出席を頼みたいな」
「さすがに、それはダメです。万一見つかった時の方が面倒でしょう」
「そうか。ジムリーダー共の、下らないゴシップが聞けるぞ」
「それは、ちょっと興味をそそられますね。でも、ダメです」
「タマムシの女が、事情通でな。ここが見つかるのも、時間の問題かもしれん」
「まあ。入り口の見張りを増やしましょうか」
「出来るなら、頼む」
「はい、調整してみます」
煙を吐いた。あの女は、侮れない所がある。この場所を嗅ぎ付けられる訳にはいかない。
部屋の扉が、開いた。
「はあ、遅くなりました、すみません」
女が、息を切らしてやってきた。走って来たのだろう。肩で息をしていた。そういう所も、今日は愛らしく感じる。
煙草を、灰皿に押しつけた。
「いいや、謝る事はない。今日も1日、ご苦労だった」
「うふふ。サカキ様、首を長くして、ずっと会いたがっていましたよ。教官殿はまだかーって」
「そんな事は、言ってないだろう」
「ずーっと、顔に書いてありますよ。さて、お邪魔虫は退散しましょうかね」
マイムは笑って、バタフリーに変身した。羽ばたきながら、部屋の外へと飛んでいく。
~ 9/17 ~