ステージ!/踊るなら、きみとワルツを

鐘屋横丁

     

「サカキさん、よろしくお願いします。
 今日はまず、トキワシティのステキなスポットをまとめたVから見て行きます。どうぞ!」
 田舎町に見所など殆ど無いのに、よく取材したものだと思った。見覚えのある景色ばかりを映したVTRが流れ続ける。定食屋やパン屋を映す。チカゲが大げさにリアクションをする。
「ワオ! とってもフカフカで美味しそうですね! サカキさん、食べた事は?」
「よく行きますね。美味しいですよ」
 笑顔でコメントする。行った事のない店だった。
 トキワの森が映る。
「カメラは、ピカチュウが巣を作っているところを発見! 運が良ければアナタも野生のピカチュウに会えるかも!?」
 いい加減なナレーションだ。森に出るのは殆ど虫ポケモンだ。ピカチュウ目当てで行ったところで、会えるのは本当に稀だ。
「僕ピカチュウ大好きなんですよ! 枕もピカチュウ柄で。野生で会ってみたいなぁ〜」
「野生のピカチュウは、とても可愛いですよ。私も好きですね」
「サカキさんも! 意外と可愛いモノ好きだったりしますか?」
「ええ、好きですよ。ははは、意外に見えますか?」
 笑顔でコメントする。野生のピカチュウは、縄張り意識も強く、極めて凶暴だ。手など差し出そうものなら、キツい電撃を浴びせられるだろう。そして勿論、自分の好みではない。好みで言えば、大柄で一撃の重たいヤツに限る。
 VTRは、トキワジムの紹介に移る。
ジムトレーナー達が、やや緊張しながらもインタビューに答えていく。
「——サカキさんはどんな人?」
「心の底から尊敬出来る人です! バトルに対してどこまでもストイックで、それでいて俺達には優しいんです」
「——最強と言われていますが?」
「勿論です! あの人こそ最強ですよ!」
「間違いなく最強です!」
「……凄いですね。ジムトレーナーの皆さんも大分強そうなのに、揃って絶賛じゃないですか」
 チカゲが、こちらに向けて微笑む。
「いえ、私もまだ修行中です。最強だなんて、勿体ない肩書きですよ」
 笑顔で返す。これだけは、本心だった。自身が最強だと奢っていた時もあった。たった1人、女に負けた。負け続けた。1回は執念で取り返したが、それでも負けている勝負ばかりだ。
 ジムトレーナー達の言葉は、大げさな世辞では無いだろう。本心から、思ってくれている。負けた自分を見て、なお最強だと言っている。なるべく、期待は裏切りたくないものだ。


~ 8/17 ~