そして、夜がやってくる。今晩は、2人ともかなりの酔っ払いだ。やはり、飲みすぎた。頭が少し痛む。
「……クレイ」
「何だ」
自分の服を脱ぎながら、クレイは答える。
「アンタは、アンタだよね」
「酔っ払ってるのか?」
「これくらい、大丈夫さ」
「そうか」
クレイの声を聞くと、落ち着いてしまう。そして落ち着くと、モヤモヤが湧いて来る。
「あー!! やっぱり無理だ」
アタシは頭を掻いた。酒の力を借りて忘れようとしても、やはり無理なのだった。
「どうした、酔っ払い」
クレイは、今度はアタシの服のボタンに手をかける。
「違うよ。聞いておくれ。今日、クチバジムでアンタの手配書を見たんだ」
「ほう。手配書?」
「ロケット団の首領で、名前はサカキ。元ジムリーダーだって話も聞いた……どう見ても、アンタの顔だった」
「面白いな。さぞかし驚いただろう」
服を脱がすクレイの手は、止まらない。
「もちろんさ! 今日、それがずっと引っかかってて……せっかくジム戦にも勝てたっていうのに……」
「それは、悪いことをしたな。確かに、何か悩んでいるかとは思っていたが、俺のことだったとはな」
「それで、ホントなのかい?」
「ああ」
クレイが、にやりと笑う。
「……」
あまりにあっさりとした回答に、返しに困ってしまった。その間もクレイは、なんだか楽しそうにアタシの服を脱がす。
「俺は怖い、怖〜い組織のボスだ。逃げ出してもいいぞ」
「そんな事っ……!」
「今日はディグダの穴を随分歩いたからな。シャワーは浴びた方がいいだろう。立てるか?」
クレイ——サカキは、アタシの身体をひょいと抱きかかえ、鼻歌なんぞを歌いながらバスルームに向かった。
「さあ、お姫様。洗ってあげよう」
「いい、いいって……」
「そうしたい気分なんだ。俺も大分酔っ払っているからな」
「……」
後は、されるがままだった。身体を洗われて、流され、ベッドの上へ。
……何かが、変わるのだろうか。少し怖かった。こいつは、クレイではない。指名手配されるような大罪人だ。一緒に旅をした楽しい時間は、全部ニセモノだったのだろうか。何度か過ごした夜も、すべて——。
「ジータ」
名前を呼ばれて、額にかるくキスをされる。それは、……いつもの始まりのサインだった。
~ 9/10 ~