君との旅路

鐘屋横丁

     

 噴水の前で、クレイは待っていた。
「どうだった。聞くまでもないかな?」
「……あ、ああ。楽勝さ。アンタのくれた、じしんの技マシンのお陰だね」
「役に立ったか。それは良かった」
 クレイの声は、少しだけ低い。聞いていると、妙に心が落ち着く。腑に落ちる事がひとつあった。ジムを避ける理由だ。元ジムリーダーなら、顔は他のリーダーに覚えられているだろう。
「疲れただろう。移動はまた明日にして、今日はクチバの観光と行こうか。まずは昼飯だ」
「そ、そうだね」
 目が合わせられない。話を切り出すタイミングも、見つからない。話をしてしまったら、やはりどこかに行ってしまうんだろうか。それは、嫌なことだった。もっと一緒にいたい。いつまでも、一緒に旅がしたい。自然とそう思うようになっていた。
 クチバは、観光に困らない町だった。景色の良い公園はあったし、大きな船も見れたし、ディグダの穴で泥だらけになりながらダグトリオを追っかけもした。
 楽しい時間だった。クレイも、笑っていた。屈託のない笑顔だった。隠し事なんて何もないような、無邪気でいい笑顔だった。

 夜もまた、クチバのホテルだった。
宿帳にふたりの名前を書く。クレイ・エラ。ジータ・ヴィオム。……偽名なのだろうか。細かい事が、いちいち気になってしまう。
 夕飯もホテルで食べる事にしたが、祝杯だと言って一番豪華なコースを頼んでくれた。
もう、悩むのはやめようと思って、ワインをガブガブ飲んでやった。
「あまり、飲みすぎるなよ」
 クレイが嗜めてくるが、そう言いながら奴もブランデーを何杯か飲んでいる。
「良いじゃないか。勝利の美酒だよ」
「やれやれ……」


~ 8/10 ~