月影に抱かれて、星を見送る

鐘屋横丁

     

「そうか。嬉しかった、のか」
「はい。あなたが成長した事が、とても嬉しいのだと思いますよ。それは私の目から見ても、間違いないです」
「……そうか」
「ふふ。いつもは私がカイリキーに変身して運んでますからね。これからはあなたがいてくれて、助かります。重たくないですか?」
「いや。問題ない。私に膂力が無いわけではないし、いざとなればねんりきで浮かせばいい」
「頼もしい! さ、着きましたよ」
 アジトの、最奥の部屋。
「ソファに寝かしておいてください。朝に私が起こすので、後は大丈夫ですよ。お疲れ様でした」
「うむ。色々と教えてくれて、感謝する」
「まあ。ミュウツー。なんだか、成長して、口調が大人になりましたね。いつでも甘えたかったら、戻してもいいんですよ」
「……そうする時が、来ないといいが」
「うふふ。そうですね。では、私は帰ります。おやすみなさい」
「ああ。ありがとう、マイム」
 マイムが部屋から出た。
 無防備な姿で寝ているサカキを、ソファに降ろした。多くの人間達を率いる長にはとても見えない。だが、ああいう一面があるからこそ慕われているのかもしれない。人間は、不思議だ。まだまだ分からない事が。沢山ある。
 ……店を出た時、月と星が見えた。ちかちかと光る、静かな光だ。真っ暗な夜も寂しくないように。みんなひとりじゃないんだよって。アイの言葉を思い出す。確かに、そうかもしれない。ひとりにならないために、月と星があるのかもしれない。
 ……アイ。僕の親は、なんだか情けないところもある。けれど、色んなことを知っていて、時に僕を支えてくれて、とても頼りになる。これからは、ひとりじゃない。サカキがいる。他の団員達もいる。僕は、月を手に入れた。もう大丈夫だ。
「おやすみ、サカキ」
 サカキのポケットから、空のボールを取り出す。指でコツンと触れて、ボールの中に自分の身を収めた。


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