月影に抱かれて、星を見送る

鐘屋横丁

     

 部屋の扉が、開いた。
「こんにちは、お疲れ様です! 皆さんもう集まってますよー!」
 女がにっこりと笑いながら、部屋に入ってきた。
「教官殿。そう……でしたね。今日は飲み会。ミュウツーの成長祝い。ええ。行きましょう。行きましょうとも。急いで行きましょう」
 そう言うと、マイムはギャロップに変身し部屋を駆け出していった。
「……? マイムさん、どうかしたのかな? ボスもほら、行きましょう」
「ああ。……デリカシーが無かったかな」
「何か言いました?」
「いや、何も。さあ行こう」
 女に手を引かれ、部屋を後にした。
 
 
 
「やれやれ。あなたも大変ですね。最初の仕事が、ご主人様の介抱だなんて」
 マイムが、悪戯っぽく笑う。サカキはすっかり酔い潰れていた。私の背中で、寝息を立てている。
 酒とは、恐ろしいものだ。あんなに冷静だったサカキがよく笑い、涙し、他の団員と何やら歌を歌っていた。まるで別人のようだった。そして、今は完全に沈黙している。
「……酒を飲むと、いつもこうなるのか」
「いつも、ではないですねえ。特別良い事があった時ですよ。こんなになるまで飲まれるのは」
「む……」
「今日のサカキ様はよっぽど嬉しかったと見えます。あなたがケーキを食べた時なんて、感動して泣いてらっしゃいましたからね。常盤音頭もきっちり3番まで歌われて……」
 その通りだった。サカキ達と、数人の団員達と訪れた酒場で、最後にケーキを食べることになった。私がケーキを食べると、サカキは涙をこぼした。他の団員達は笑っていたが、サカキの涙の意味がわかる私は、自分も涙を流しそうになって、ぐっと堪えた。
 ケーキは、甘かった。果実を包むふわふわとした生地が、美味だった。涙を堪えながら食べたので、後半は少し塩っぽい味になってしまったが、それでも美味しかった。


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