月影に抱かれて、星を見送る

鐘屋横丁

     

「ミュウツー。そら、買ってきたぞ」
「ありがとう、サカキ」
 サカキが帰ってきた。ミルクを墓に供えた。よく知らないけれど、なんだか墓らしくなったように思えた。
 また、手を合わせる。
 ……アイ。飲みたがっていたミルクだよ。僕もあとで飲んでみる。ケーキも、食べてみるよ。今は、お日様の光を感じる。ほかほかだよ。夜になったら、きっとお月様とお星様の光が見れるんだろう。真っ暗な夜も寂しくないように。みんな一人じゃないんだよって。ちかちか。楽しみだな……。
「……サカキ。ありがとう、もう大丈夫だ」
「そうか。ひとつ達成だな。次は何がしたい? 今日は予定を空けてきた。いくらでも付き合おう」
 イチョウで埋まった道を、二人で踏みつけながら歩く。
「……うん。まずは、親になって欲しい人が、見つかった」
「ほう」
「お前だ、サカキ。色々と世話になったし、私が見た中では一番強い人間だ。多くの人間と共にありながら、全く人間を嫌わないところが、良い」
「お前に褒められるとはな。嬉しい事だ。わかった。このボールに入れ。退屈させない事だけは、約束しよう」
 サカキはにやりと笑い、空のボールを差し出してきた。そのボールを手で、こつんと叩く。ボールの中に、吸い込まれた。かちりと音がする。これで、私はサカキのポケモンになった。サカキが、ボールのスイッチを押す。私は再び外に出た。
「さて、どこに行こうか。付き合うぞ、どこでも」
「そうだな。月と星が見たい。でも、これは夜か」
「ああ、そうだ、夜は私に付き合って貰うぞ。お前の成長祝いをする」
「成長祝い」
「そうだ。盛大にやるぞ。楽しみにしておけ。ケーキも、用意させよう」
「それは、嬉しいな。わかった。楽しみにしておく。……では、お前たちがいつもいる場所に行きたい。アジトと、言うのか?」
「いいだろう。案内してやる。これから、毎日過ごす事になる場所だ」


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