月影に抱かれて、星を見送る

鐘屋横丁

     

 外は、晴れていた。日の光を浴びて、風を感じながら土の上を歩いた。小さな感動があった。あれが、お日様。太陽。ほかほかするもの。少し歩くと、黄色い木の葉で、地面は埋まっていた。イチョウという木らしい。研究所の裏に来た。
「簡易なものだが、墓石を作らせてみた」
 サカキが取り出したそれは、小さなものだった。アイの名前と、命日が掘ってある。十分だった。
「あとは、博士から、そのとき使っていた試験管を貰ってきた。実験の最初の段階で使ったものらしい」
「……」
 それもまた、小さなものだった。アイ。キミは最初は、こんなに小さかったのか。
「どうやって、埋める? 私のポケモンで埋めても構わないが」
「いや。いい。自分の手で、埋めよう」
 植っていた、大きな木の下にした。イチョウの葉を払う。土は柔らかかった。手が、土で汚れる。それがなんだか、妙に清々しかった。ついさっきまで、ガラス管の中で、汚れることのない身体だったのに。
 少し土を掘り、試験管を入れる。土をかける。完全に埋めた。墓石を立てる。
「すまない。花でも買って来ればよかったな。何か、供えるものがあった方が良かった」
「……ミルク」
「ん?」
「ミルクを、持ってきてくれないか。アイが、飲みたがっていた」
「わかった。確か、中の自販機にあったな。買ってこよう」
 サカキが研究所に戻っていった。
 風が、強く吹きつけた。地面に広がっていた、イチョウの葉が舞い上がる。
 ……こういう時、人は手を合わせるんだったか。土まみれになった手を、墓石に向けて合わせた。
 ……アイ。僕は、生きていくよ。ここで。今まで、ありがとう。僕のそばに、いつも居てくれて。別に忘れるわけじゃない。でも、僕も生きていかないといけないんだ。キミのいない世界を。
さようなら、アイ。僕の母であり、姉であり、友であった人。


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