月影に抱かれて、星を見送る

鐘屋横丁

     

「……そうか。それは、難儀だな。
 そろそろ、お前も成長してきた。ガラス管から出たら、墓を作ったらどうだ」
「……墓」
「命の火が消えた時、人間は墓を作って弔う。それで、一つの区切りとする。旅立つ者と、送る者に明確に分かれる。
 墓は、旅立つ者の眠る場所となる。別にいつ参りに来てもいい。何か報告があれば、しに来てもいい。旅立った者は、いつでも静かに待っている。それが、墓だ」
「……いいかも、しれない。アイは、これからもずっと僕と共にいる。でも、僕はいつまでも同じ場所に居るわけにはいかない。前に進まないと、いけない。区切りが、必要だ」
「私も手伝おう。成長して、やる事ができたな」
「ああ。感謝する。……そろそろ、眠るよ」
「そうだな。おやすみ、ミュウツー」
「うん……」
 
……アイ。ひとつキミにしてあげられる事を今日、教えてもらったよ。打ち明けてみて、よかった。……僕は、サカキが好きだ。はっきりと物を言うけど、冷たさは感じない。放っておいて欲しい事には、触れてこない。尊敬する団員が多いのも、わかる気がする。

 ガラス管の中ではわからないが、季節は巡った。春が過ぎ、夏になり、秋が来たらしい。
活動時間は、ぐんと伸びた。1日に2人話し相手が来るようになり、3人になった日もあった。既に顔見知りの人間と、2回目の対話の時も多かった。
 "私"の身体は、成長し、完全体となった。ある日、遂にガラス管から出られる日がやって来た。
「いよいよだな」
 サカキが目の前にいる。
 身体に繋がっていた管が外れ、ガラス管から水が排出される。
 一歩、二歩と踏み出す。イメージ通りに歩けている。
 四肢が、だいぶ大きくなった。尾も伸びた。人間達より、少し高いくらいの背になった。
「おめでとう、ミュウツー。チェック全て異常なし。これで今日からは自由の身だ。さて、何から行こうか」
「ありがとう、サカキ。やりたい事は、沢山ある。お前が話し相手を寄越してくれたお陰で、この世界に色々なものがある事が分かっている。
……でも、まずは、アイの墓を作りたい」
「わかった。研究所の裏にしよう。誰も来ないような、場所がある」


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