月影に抱かれて、星を見送る

鐘屋横丁

     

「きっと、気にいるよ。
 ……いつかはヤミカラスも、俺の元を離れて行ってしまうのかもしれない。ボスみたいに、誰かのものになって戦うのかもしれない。でも、もう、それでいいんだ。ヤミカラスが選んだ道なら、俺は止めない。いつか、いつも一緒のパートナーに巡り会えるといいなと思ってる。それがヤミカラスなら、俺は一番嬉しいけど」
 ヤミカラスは不思議そうな顔をして、首を傾げている。
「……目を、開けてもいい」
「はいよっと。
 ミュウツーは、親はいないの?まだ誰のポケモンって訳でもなさそうだよね」
「うん。誰かと主従関係を結んだ事はない。これから、結ばされるのかもしれない」
「そっか。誰が親でも、自分が思う通りにやったらいいよ。ポケモンにだって、親を選ぶ権利があると思うんだ」
「そうだな。気が向かなかったら、逆らってやろうか」
「いいと思う! 納得出来るまで、ぶつかるのもひとつの形だと、俺は思うよ」
 男は歯を出してにかっと笑った。ポケモンの意思を尊重する男。自分の未熟さを認め、能力の活かせる居場所を見つけた男。昨日までとは全く違う人間だ。しかし、また興味深かった。

 男が去ると、またサカキが来た。
「どうだ、今日は。また少し、毛色の違う奴だったろう」
「ああ。人が違えば、話す事もまるで違うね」
「ここには、色々な人間がいる。毎日ずっと科学者どもと向き合ってるよりは、面白いはずだ」
「そうだな。……サカキ。僕はいつか、誰かのポケモンになるの?」
「ポケモンとは、そういう生き物だ。親となるトレーナーがひとり必ずいる。だが、別に拘らなくても良い、と私は思う。
 組織のポケモンとなっても良いし、親が2人居ても構わないだろう。話していて、こいつはと思う人間が居たら、私に言え。そいつをお前の親にしよう」
「わかった。今のところは、思いつかない」
 サカキは少し黙ると、口元に笑みを浮かべた。
「……お前は、何も焦る必要はない。ロケット団というゆりかごの中で、時に我々に抱かれて、ゆっくり成長しろ」
「……わかった」
「では、また来る」
「うん」
 活動限界だった。眠気が、やって来る。成長すれば、自分はどうなるんだろうか。戦うのか。……なんのために? 生きる意味の、ために?

 ……アイ。今日もまた人間と過ごしたよ。話の面白いやつだった。今日も、サカキが来た。科学者達はみんな畏れているけど、サカキは僕には、とても優しい。……このまま、僕は人間に慣れていくのかもしれない。それでいいのかな?
 


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