月影に抱かれて、星を見送る

鐘屋横丁

     

 次の日は、黒いポケモンを連れた男がやって来た。
「ミュウツー、初めまして。俺は、モノトって名前だ。こっちは、相棒のヤミカラス」
 ガラス管の前で、男が喋る。ヤミカラスは肩に乗ったまま、大人しくしている。
「お前が、今日の人間か」
 テレパシーで、話しかける。やはり少し驚かれるが、男はすぐに慣れた。
「うん。凄いな、テレパシーって。マイムに聞いてたけど、本当に頭の中に声が聞こえるんだね」
「……目を、閉じろ。お前の中を、見させてもらう。あまり難しいことを考えるな」
「はいよっと。これでいいのかな」
 男が目を閉じる。こころの、中を見る。見ているものを、男と共有する。見えたイメージを、男の脳に送り込む。
 ……男は色んなポケモンに囲まれていた。どのポケモンもよく懐いているように見える。進化するものもいる。男は喜んだ。だが、ある日終わりがやってくる。ポケモンが、命令を無視する。男の元を、去って行く。男は、涙を流す。
「なんだか、恥ずかしい所見られちゃったな。俺はね、ポケモンを育てるのが好きなんだ。スクールに居た頃は、ブリーダー志望だった。
 でも俺バカだから、全然バトル出来なくてジムバッジが貰えないんだ。タイプの相性とか覚えらんないし、作戦もうまく立てられなくて……。
 だから、ある程度まで育っちゃうと、みーんな俺の言うことなんか聞かなくなって、俺を置いて、どこかへいってしまうんだ」
 男の服装が黒服になった。この軍団に入ってからの記憶。サカキ。男のヤミカラスを興味深げに見ている。
「ロケット団は、俺の居場所だよ。ポケモンを育てたら、誰かが使ってくれるんだ。俺がやるより何倍も、バトルで生き生きしてる姿が見える。ボスにも、ヤミカラスを使ってもらった事があるんだ! 
 その時のヤミカラスはさ、凄いカッコよかったんだよ。教官ちゃんのゲンガーを倒してさ。それがもう、ずっと忘れられない。
 ミュウツーも、いつか見れるようになったらふたりの戦いを見るといいよ。いつもギリギリまで勝敗が分からなくて、ワクワクする」
「……戦うことが、あるのか」
「うん。教官ちゃんはいつも訓練所にいて、ふらっとボスがやって来てバトルになる。
 みんな仕事を放り投げて、バトルの観戦に行くんだ! で、マイムに怒られる」
「……そうか。見てみたいな」


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