月影に抱かれて、星を見送る

鐘屋横丁

     

「……終わりだ。目を、開けてもいい」
「はい、どうも。
 ……どうです。面白いですか? 私はきっとひねくれていますから、明日以降来る人間の事も参考にするといいでしょう」
「お前のようなのは、なかなか居ないと思う」
「うふふ。そうかもしれませんね。でも、人間は奥深いですよ。十人十色。誰にでも、その人なりのストーリーがあるでしょう。あなたのその素敵な力で、それを楽しむといい。
 では、また。」
 ガラス管の前で一礼すると、人間は去って行った。
 ……明日から、これが続くのか。
 人間を、知る。良い、情報収集になる。驚く事も多いが、いい暇つぶしにはなる。何回か繰り返せば、驚く事も無くなってくるのだろうか。

 程なくして、サカキがやって来た。
「体調に、変わりはないか? どうだった、マイムの話は」
「ああ。とても興味深かった。全く退屈をしなかった」
「それは何よりだ」
「お前に対する、激しい執着を持っている奴だった」
「……執着。マイムが。そうか。執着か。お前の言葉では、そうだろうな。実際はもう少し、いい言葉があるが、まあ、お前にもいずれ分かるだろう」
「……」
「気を悪くするなよ。人間の事をもっと知れば、分かるようになる。それだけだ」
「……サカキ。僕は、実験で生まれたの」
「ああ、そうだ。あるポケモンの化石を復元させる実験だった。名を、ミュウという」
 聞き覚えのある名だ。科学者達が、話していたような気がする。
「ミュウ。そうか。僕は、ミュウのツーか」
「そうだ。お前は、ミュウではない。我々はお前を、別のポケモンと考えている」
「……本当は、ミュウが欲しかった?」
「ミュウが欲しいか。聞かれれば、それは欲しいな。だが、お前が要らないかと言うと、そうではない」
「……僕は、なんのために生まれたの」
「それはな。誰もが疑問に思う事だ。人間も、ポケモンも、きっと同じだ。だから今、私は答えを用意してやる事は出来ない。これから、ゆっくりと探すといい。
 戦って示すもいいし、寄り添える者と出会うもいいだろう。自由に生きるでもいい。そこにも、答えがあるだろう」
 こころを読まずとも、分かる。自由に生きさせる気は無いだろう。鎖にでも繋いで、僕を飼うのかもしれない。
「……」
「お前は、実験の結果だ。我々は、その結果を受け止める。お前を、無下には扱わない」
「……さっきの奴も、似たような事を言ってた」
「そうか。あいつのように、ここで持てる力を発揮するのもまた答えだろう。
 ……そろそろ、活動時間の限界じゃないのか。あまり、無理はするなよ。ゆっくり休め」
「ああ。そうさせて貰う」
目を閉じた。眠りに落ちる。いつもと違って、退屈はせず、充実した日だった。

 ……アイ、今日はとっても変なやつが来たんだ。人間ともポケモンとも言えないやつが来た。……でも、アイなら笑うのかな。どっちでもいいじゃないって言うのかな。僕は、アイは、結局どっちなんだろう。人間なのかな、ポケモンなのかな。……どっちでも、いいのかな。
生まれた意味、分からなかったよ。これから僕に見つけられるのかな……。
 


~ 16 ~