月影に抱かれて、星を見送る

鐘屋横丁

     

 ……ミュウツーとの、対話。
 それが任務でした。しかも、私だけではなかった。サカキ様は、団員達に召集をかけると、ミュウツーが生まれた事、最強のポケモンになるかもしれない事、まだ人格の形成に不安定さが見られる事をお話しになり、当番表をお配りなさいました。
「日に、ひとりずつ。ミュウツーの活動限界に合わせて、小一時間程度だ。何の話をしても構わない。話題に困った時は、適当なテーマを書いておいたから、参考にしろ。大事なこととして、決して嘘はつくな。ミュウツーはエスパーポケモンだ。人の心が分かる。時には、あちらから心を覗き込んでくる。
 ……早速だが、今日から始める。任務で外に出ている者は、自分の当番の日は帰ってくること」
 当番表の今日のところに、私の名前がありました。テーマ例は、自身の成り立ち。これを、団員全員分お書きになっている。順番も、よくお考えの上決めていらっしゃるのでしょう。
「オレ来週だ。テーマ例は、手持ちポケモンとの出会いか」
「俺はその次の週だ。テーマ例は最近の失恋……? サカキ様、何でこんな事知ってるんだ、放っといてくれよぅ……」
「お前がこないだ飲み会で泣きながら喋ったからだろ! 俺は……音楽についてか。いいな、ギター持ってって、弾いてやろう」
「ミュウツー、どんなポケモンなんだろう。見た事ある奴いるか?」
 団員達はあまり恐れた様子はなく、楽しそうにしてる者が多い。気楽なものです。……それくらいの心持ちで居た方がいいのかもしれませんね。深呼吸。リラックスして、研究所に向かうことにしました。

 ……研究所に入ったのは久しぶり。実験のとき以来です。相変わらず、薄暗くて狭くて、埃っぽい所。掃除をする者など、居ないのでしょう。部屋の隣を通った時、でした。
「おや? 誰かと思えば……被験体132番ではないか。久しぶりに、動く姿が見れたわい」
 白衣を着た科学者が、ニタニタと笑いかけてきた。背筋がぞわりとする。知っている。実験の時に居た科学者だ。何人か居る。揃いも揃って、陰気な笑いを浮かべている。
「その番号で、呼ぶな。今はあのお方から賜った名が、私の名前」
 睨みつけながら、そう返す。心臓が、音を立てている。番号で呼ばれていた頃。実験の事。嫌な事ばかり思い出す。
「サカキ様に、か?」
「前のトレーナーの間違いでは無いのか?」
「黙れ。今の私は、幹部の身。貴様らなど、すぐに首を切ってやる事も出来る」


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