「何ですか、この有様は!」
思わず声を上げた。団員たちが狼狽える。
散らかり放題の部屋。何か食べ物が腐っているのだろう。異臭がする。
「マイム……えっと、ごめん……」
団員のひとりが、頭をかきながら謝ってきた。
「全く! 少しは掃除しなさい! 共有スペースでこの有様なんですから、それぞれの部屋は……おお、考えたくもない……」
ロケット団には、ポケモンとの旅の途中で挫折した者が多い。帰る家の無い者も、多い。そのため、寮があります。
今日は、男子寮の環境が酷いらしいという情報をサカキ様から頂いて、確認に参りました。
「共有スペースの掃除が終わったら、それぞれの部屋を回りますからね。居る者はゴミをまとめておくように。そこ! 四角の座敷を丸く掃くような真似はよしなさい! この機会に、ちゃんと隅々まで掃除するんですよ。全く、ベトベターが湧きますよ、そのうち」
大きなため息が出る。こんな事に時間を使いたくなかった。少し確認して、すぐに戻って他の仕事をこなしたかったけれど、これでは無理ですね。
ゴム手袋を両手にはめる。私物は一旦まとめる。ゴミはゴミ袋に。出来る限り分別する。掃除機をかけた。シンクも、酷い有様。異臭に耐えながら、掃除をした。
もう夕方なので、団員たちが次々と戻ってくる。掃除をするよう命令する。それぞれの部屋を回って、ゴミを集める。特に汚い部屋の持ち主には、軽くお説教。
「これからは月に一度、確認に来ますからね! 皆さん、綺麗に使うように」
「はーい」
「うーい」
「寮母さんありがとう!」
「誰が寮母ですか、誰が!」
また、ため息が出た。
実に、無益な時間を過ごしてしまいました。アジトに戻る。最奥の部屋を目指して歩く。廊下は静かです。この静けさが、いい。先程まではぐちゃぐちゃだった、頭の中がまとまります。扉を開けると、先客がいらっしゃいました。
「マイムさん! お疲れ様です」
「おや、教官殿。サカキ様は、まだいらっしゃらないのですね」
「はい。待ってたんですけど、まだで」
「お茶を淹れて来ます。待ちましょう、ふたりで」
他愛もない話をしながら、時が経つのを待ちました。今日の訓練の話。男子寮の話。そして、サカキ様の話。あのお方の話になると、私たちは熱くなりがちです。
「遅いね、ボス」
「そうですね……。研究所でしょうか。少し、心配ですね」
その時、廊下に大きな足跡が響いて来ました。早い足音。急いでいる。苛立っている。まあ、何があったのでしょうか。
~ 8 ~