月影に抱かれて、星を見送る

鐘屋横丁

     

「僕たち、どうして生まれてきたの?」
「パパと、ママがいたから」
「僕たちを作ったのは、パパとママ?」
「私たちの場合は……うーん……えーと……神様かな」
 意外な答えが返って来た。僕たちの場合は、違うのか。かみさま。不思議な響きの言葉。
「かみさま……。
 アイ、僕たちって、いったい何なの?」
「とっても不思議で素敵な生き物。ポケットモンスター」
「ポケットモンスター。じゃあ、アイもポケットモンスター?」
「ううん。私は人間。でも、コピーだから……だから……」
 大きな泡が、ごぽりと鳴る。アイの返事がない。
「どうしたの? ……アイ?
 アイ、答えて? アイ、何があったの?」
「……なんだか、お別れが近づいたみたい。
ミュウツー、生きてね。生きているって、きっと楽しい事なんだから」
 アイが、急に難しいことを言った。おわかれ? 嫌だよ。アイ……ずっと一緒にいたいよ……
「アイ、僕ね、僕の目から何かが流れている。これ、何?」
 アイ。質問を続けていれば、まだ居てくれるような気がした。また返してくれるような気がした。
「……多分、涙。」
「なみだ」
「ミュウツー、ありがとう。泣かないで。あなたは生きるの。
生きているって、ね。きっと、楽しい事なんだから」
 アイの気配が、ぷつりと消えて無くなった。泡の音だけが聞こえる。
「アイ、止まらないよ、涙。どうしたらいいんだ。アイ、答えてよ……」
 アイの答えは無い。泡の音。水の流れる音。ここは、こんなに静かなところだっただろうか。アイ。生きるってなに? 答えて、教えてよ。アイ。どこに行ってしまったの。どうして、僕を置いて行ってしまったの……。
 周りが、騒がしくなった。僕の方を見て、人間たちが何かを言っている。こいつらなのかな。僕からアイを奪ったのは。アイを返せ。アイを返せ。アイを返せ!
 泡がまた、ごぽりと音を立てる。何か、この中に入れたのか。急に眠気が襲って来た。アイを……アイを返せ……くそっ……アイ……。
 


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