月影に抱かれて、星を見送る

鐘屋横丁

     

「アイスリー……?」
「そう。ワン、ツー、スリー、フォー!
 ワンがあればツーがある。ツーがあれば次はスリー。ちっとも不思議じゃないわ。
ほら、ワン、ツー、スリー、フォー、ファイブ」
「ワン、ツー、スリー、フォー、ファイブ」
「いち、に、さん、し、ご。数。数字。」
「いち、に、さん、し、ご」
 言葉を、繰り返す。これが数字。数の順番。
「そう。素敵でしょ」
「素敵?」
「本物じゃなくったって、アイツーだって、アイスリーだって構わない。
 私もミュウツーも。ちゃんとここにいるんだもの。これって絶対素敵よ」
 アイの話は、楽しそうにぽんぽんと、色んなところへ飛んでしまう。ついて行くのが大変だ。でも、今の僕にはどれも大切な話だ。もっと、知りたい。情報を、知識を、脳が求めてる。
「アイ。僕、もっともっと、いろんな事が知りたい」
「うん。教えてあげる。私の知ってる事なら」
「アイ。何かを感じるよ。何かが見えるよ。
あれ、何」
 白く暖かい、光。外から何かが光っているのを感じる。
「感じるの? 見えるの? あれが」
「うん」
「あれはねえ、お日様」
「おひさま?」
「私たちを明るくして、暖かくしてくれるの。ほかほかなの」
「ほかほか……かぁ」

「アイ、あれは何?」
 時間が経つと、今度はまた違う光が差し込む。
「お月様とお星様。真っ暗な夜も寂しくないように。みんな一人じゃないんだよって。夜にちかちか。」
「ちかちか……かぁ」

「ねえねえ、あれ何? あの人は何を食べているの?」
「あれは……ふふっ。研究所の人が食べている、ケーキとミルク。」
「ケーキって? ミルクって?」
「ケーキってね。甘くて、柔らかくって、大人じゃなくって、本当は子供がだーいすき」
「じゃあ、アイも大好きなんだ」
「ないの。私、食べた事。
だって、この中……水の中じゃ、食べられないもの」
「そっか。じゃあ、ミルクは?」
「ないの。欲しいよーって、泣いた事はあるの」
 アイは少し寂しそうだ。ここから、外に出たいのかな。アイにとって、それは、叶わない事なのかな。


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