そこには、何もなかった。見える景色はいつも同じだった。光と闇。あとは、水と泡だけが、いつもそこにあった。
「……ねえ、私この子のママになってもいい? お姉さんになってもいい? 私、こんな子がいるなら生きててもいいな」
誰かの声。誰だろう。目の前にあるのは、やっぱり水と泡だけ。
「……ここはどこ? 僕は誰? どうして僕はここにいるの?
外で、誰かが僕のことを話している……でも、何を言っているの」
「あれってね、言葉なの。人間の」
また、誰かの声。僕の言葉に応えてくれたようだった。
「だれ、きみ?」
「私はあなたのね、そばにいるの。すぐそば」
「すぐ、そば?」
水と泡の他に見えるものはない。でもきっと、この外に居るんだろう。
「私は、あなたと同じみたいに生まれた人間なの」
「人間? 僕も、人間なの?」
「私たち、お話できるんだから、人間かもね。それとも、私がポケモンだったりして」
「人間? ポケモン? 僕は、どっちなの」
話は、難しかった。会話になっていない会話が続く。よく、わからない……。
「どっちでもいい。私たちは同じような生まれ方だもん。私たちはみんなコピー。本物がいるの。だからワンじゃなくてツー。」
「じゃあ僕もツー?」
「私もツー。ほんとの名前は、アイ。でも、本当の私はアイツー。ううん、もしかしたら私はスリー。アイスリーかもね」
名前を教えてくれた。でも、なんだか複雑だ。コピーだと、ツーなのかな。……コピーって、なんだろう。本物がいる。じゃあ僕は、ニセモノなのかな……。
頭が混乱しそうだ。でも、あっちはなんだか楽しそう。僕と話せるのが、嬉しいみたいだ。
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