果てへの航路

鐘屋横丁

     

 桃色のグラニテが運ばれて来た。女が、不思議そうにする。
「これは? もうデザートなの?」
「魚料理の、口直し用だな。メインディッシュはこの後だ」
「そっか。いただきます」
「……うむ。冷たくて、美味いな。」
 みずみずしく、すっきりとした甘さ。使われているのは、グレープフルーツだ。
「うん。そうだ、スイクンの事なんだけど」
「ジョウトで捕まえた、あいつか。どうした?」
「全然懐いてくれなくて、困ってるんだ。
 なんて言うか、ちょっと近寄り難くて。一緒に遊んでくれるようにはなったんだけど、心を開いてくれてる感じがなくて」
 女が、困った様子を見せる。
「そうか。何せ、伝説のポケモンだからな。そう簡単には、人に懐かないものだ」
「バトルに出せば、気持ちがわかるのかなと思ってるんだけど、なかなか出しづらくて……」
「それは、遠慮しなくてもいいんじゃないか? スイクンも、同じ思いかもしれない。スイクンとも、最初の出会いは戦いだろう」
「そっか……考えた事なかった。スイクンも、わたしと同じなのかもしれないね。うん、今度訓練中に出してみるよ」
「最近は、なかなか訓練場に行けてないな。たまにはキミとまた、バトルがしたい。今度時間を作って行こう」
「はい! わたしも、戦いたいです」
 女の顔に、笑顔が戻る。
 そこへ、赤ワインと肉料理が運ばれてきた。皿の中央にステーキがあり、まわりは付け合わせの野菜に彩られている。
「俺のヤミカラスも、レベルが上がってきた。そろそろ、試してみたい。ジム戦では使えないからな」
「あ、そうか。地面タイプのジムだから」
「ああ。厳密に使用タイプが決まってる訳では無いんだが、一応な。
 トレーナーにも守ってる奴は多いんだが、たまに他のタイプも見て欲しいって奴がいてな。カントーにジムが無い、格闘ポケモンや虫ポケモンを持ってくる。俺も専門外だ。出来るだけの事しか教えられないんだが、ちょっと見てやったら噂が広まってしまって、最近はなんでもありになりつつある」
「ふふふ。すごいなあ。
 きっと、正しい答えが欲しいんじゃなくて、あなたに見て欲しいんだと思う」
「そういうものか?」
「きっと、そうだよ。信頼されてるんだね」
 女が、にっこりと微笑む。信頼か。そうなのかもしれない。
 ……昔から、人を従わせる事は慣れていた。気づけば、向こうから寄ってくるのだ。別に、自分が特別優れた人間だとは思っていない。すごい奴だと、周りに思わせるのが得意なだけだ。詐欺師に近い。
 だが、そうして従えた人間を粗末に扱うことは、したくなかった。出来るだけのことは、してやりたかった。ロケット団でも、ジムでも、会社でも、それは同じだった。……そして、女に対しても、それは同じだ。
「信頼か。やれやれ。どこに居る時でも、気が抜けないな」
「ほんと、大変そう。無理しないでね」
「ああ。せめて、キミの前では、ゆっくりしていようかな」
「それがいいよ。わたしも、その方が嬉しい」


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