果てへの航路

鐘屋横丁

     

 タマムシデパートの地下には、美しく彩られた菓子が沢山並んでいた。しばし悩む。どんなものが、口に合うだろうか。見た目も、多少可愛らしい方が良いだろう。マカロンを選んだ。きっと、好むだろう。
 さて、もうひとつだ。何をやっても喜ぶだろうが、あのクッキーは美味かった。きちんと返礼をしなくてはならない。缶のデザインが目を引いた、キャンディーの詰め合わせにした。
 支払いを済ませ、アジトの最奥へ進んだ。地下は、涼しくていい。この時期のほんのりとした暖かさは、あまり好きではなかった。どこか、思考が鈍るような気がする。常にやるべき事は多いのだから、頭が働かないようでは、いけない。
 部屋に入ると、ふたりは既に待っていた。
「サカキ様!」
「お疲れ様です、ボス」
 マイムと、女がこちらを振り返る。
「ああ。二人とも、ご苦労。先月の礼だ。キミにはこれを。マイムはこっちだ」
 先程の菓子をそれぞれに渡す。ふたりの顔がぱっと明るくなった。
「まあ! 私にも? ありがとうございます」
「ありがとうございます、嬉しい」
「うむ。何だか、似てきたな。キミ達は。兄妹のようだ」
「うふふ。こんなに可愛いお方となら、光栄ですね」
「そうかな…….? 私も、マイムさんなら悪い気はしないです」
 そういって、またそっくりな笑顔でふたりで笑い合う。悪い光景ではなかった。
「さてさて。本日の報告は、そんなに多くはありませんな。確認頂きたい書類が少しだけございますが、急ぎではありません。研究所の方も、今日は特に何も無いようです」
「そうか。分かった、見ておこう」
「では、私はこれで。良きホワイトデーをお過ごし下さい……! お邪魔虫は失礼します」
 そう言うと、マイムはコンパンに変身してトコトコと部屋を出て行った。
「……やれやれ。悪いが、少し待っていてくれないか? レストランの予約までには、時間がある。雑務をこなしておきたい」
 今日は、すこし上等な店を予約した。先月、女が作った菓子はとても美味しかった。その返礼として、出来る限りのことをしたかった。
「はい、大丈夫です。ここで待ってます」
「そうか。良ければ、俺の手持ちを構ってやってくれ」
 ボールから出した。ペルシアン。付き合い自体は長く、ずっとニャースのままだったが、最近進化した。身体が大きくなったせいか、ボールに入るのをあまり好まなくなった。外に出たがる。人懐こく、よく甘えてくる。
「おいで、ペルシアン」
 女が呼ぶと、ニャアンと鳴いて甘えに行った。撫でてもらい、ゴロゴロと喉を鳴らしている。


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