甘味と、もどかしさ

鐘屋横丁

     

 そう言うと、ぎゅう、と音がしそうな程抱きしめられた。鼓動が聞こえる。彼も、どきどきしている。きっと、わたしと同じくらい——
 しばらく、何も言わずに抱き合っていた。鼓動と、ふたりの吐息の音が聞こえる。
 腕が離れた。唇に、触れるだけのキス。わたしの腰に手が回ってくる。優しく寝かされた。彼の右手が、わたしの秘所に触れる。指が中に入ってきた。
「ひあっ……!」
 快感が、押し寄せてくる。感じるところを、もう既に知り尽くされてる気がする。2本目が入ってきた。もう、頭の中はめちゃくちゃだった。気持ちいい。
 果てが近づく。何も考えられなかった。頭は真っ白になって、自分の下半身がガクガクと震えてるのだけが分かる。
「ふ、ぅ……イッちゃう……!」
 絶頂。頭が、ぼーっとする。あっという間にイッてしまった。もう、わたしの気持ちいいところは全部わかってるんだろうな。そう考えると、なんだか恥ずかしい。
 そのまま横になっていると、カサカサとビニールの音がした。コンドームを着ける音だろう。
「……」
「さあ、入れるぞ。夜は、これからだ」
 そう言うと、一気にわたしの中に入ってきた——気持ち、いい……イッたばっかりで、敏感になってる。少し動かれただけで、快感にぶるぶると震えてしまう。
「はぁっ……ふぅっ……いぃ、ですっ……」
 動かれる度に、恥ずかしい声が漏れてしまう。ぎゅっと瞑っていた目を開けた。目と目が合う。キスが降ってきた。唇に触れるだけのキス。甘い気分になるけど、やはりもどかしさが残る。
 ……自分が望んでいる事は、もう既に、とてもいやらしいのかもしれない。もっと激しくされたい。めちゃくちゃにして欲しい。
 でも、優しくされるのも決して悪くはなかった。このもどかしさが、身体を熱くする。
「……名前を、呼んでくれないか」
 少し恥ずかしそうに、彼は言った。


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