甘味と、もどかしさ

鐘屋横丁

     

 話しているうちに、部屋の扉が開いた。
「サカキ様!」
「……ああ。ふたり揃って、どうしたんだ。マイムはともかく。キミは、非番だろう」
「ええと……」
 マイムさんの顔を見た。にっこりと笑っている。
「あの、今日は、バレンタインデーなので。これ、作ってみたんです。多分、美味しいと思います。どうぞ……」
 どきまぎしながら、なんとか差し出した。彼は目を丸くして驚いているようだったが、すぐいつもの顔に戻った。にっと笑って、受け取ってくれた。
「そうか。バレンタインか。すっかり忘れていた。これを、作ったのか?」
「はい。マイムさんに、教えてもらって」
「私はほんの最初だけです。教官殿の、お手製ですよ」
「そうか……。ありがとう。大事に食べる事にしよう」
「私も用意してございます。お二人ともに、どうぞ。ジンジャークッキーです。甘さは控えめにしてあります」
「やったー! ありがとうございます!」
「マイムもか。しばらく、間食には困らないな。ありがたく頂こう」
「ふふふ。では、私はお先に失礼します。ハッピーバレンタイン!」
 そう言うとマイムさんは、楽しそうに去って行った。
「……ふむ。今、食べてみてもいいかな」
「は、はい」
 彼はラッピングを開けて、マフィンを取り出した。ひと口食べる。緊張する…….。
「甘いな。美味いぞ」
「よかった!」
「うむ。続きは後でゆっくり食べよう。
 ……良ければこの後は、一緒に過ごそう」
「はい!」


~ 11 ~