甘味と、もどかしさ

鐘屋横丁

     

 その時、オーブンのタイマーが鳴った。マイムさんがミトンをはめて、中を開ける。甘い匂いがふわっと香る。取り出されたトレイには、膨らんだマフィンが並んでいた。無事に、焼けてるみたいだ。ほっとした。
「ふむ。念のため、確かめましょうか」
 マイムさんが、爪楊枝を取り出した。
「つまようじ、ですか?」
「真ん中に目立たないように刺して、中まで焼けてるか確かめるんです。抜いてみて、生の生地が付いてくればまだ生焼けですね」
「なるほど!」
 ひとつのマフィンの真ん中に刺して、引き抜く。何も付いていなかった。
「うん、大丈夫でしょう。少し冷まして、食べてみましょうか」
「やったー! ありがとうございます!」

 食べたマフィンは、信じられないくらい美味しかった。大成功だ!
「うーん、美味しい! これならサカキ様も、きっとお喜びになりますよ」
「ありがとうございます。13日は、ひとりで作れるように頑張ります!」
「今日の感じなら、大丈夫でしょう。もうひとつ頂いてもよろしいですか? 私、甘いものが好きで好きで……」
「はい、どうぞ! わたしも、もうひとつ食べようっと」
 マフィンは4個。マイムさんとふたりで、2個ずつ食べた。13日にまた待ち合わせる約束をして、マイムさんのお家を後にした。いい1日だった! ちゃんと作れて、少し自信がついた。きっと、ひとりでも作れるはず!
 
 そわそわする気持ちを抑えながら、それからはいつも通りに過ごした。アジトに行って、戦闘訓練をこなす。
 ボスは、忙しそうにしている。なかなか会えなかった。最近はずっと研究所に通っているらしい。実験が上手くいってないとか、どうとか。少し心配だ。ちゃんと休めてるのかな。


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