煙草に、火をつけた。
爽やかな、目覚めだった。久しぶりに、深く眠ったような気もする。窓の外には、この街の観光名所であるふたつの塔が見える。空は少し雲が多いが、降りはしないだろう。
女は、まだ夢の中だ。愛らしい寝顔をして、布団に包まっている。
「……」
昨夜の事を思い出す。このまま、この女に、溺れていてもいいのか。決して、幸せな未来がある訳ではない。女にとっては、茨の道だろう。それでも、ついて行くと言うのだろう、きっと。それを止める事は、もう出来ないでいた。女にも、覚悟があることは分かっている。
自分が、女に、してやれる事は何だろうか。こうして、恋人の真似事をする事くらいだろうか。何か望む事があれば、出来るだけ叶えてやりたい。
「……」
煙草を、灰皿に押しつけた。そろそろ、朝食の時間だ。女を起こすことにした。
「そろそろ、起きたまえ」
「ん……」
声をかけると、もぞもぞと動き出す。時計を見て、焦った様子を見せた。
「わっ。朝ご飯来ちゃう。……おはようございます」
「はい、おはよう。よく眠っていたな」
「うん。いっぱい寝ちゃった……準備します」
女は立ち上がり、部屋を出た。顔を洗っているのだろう。洗面所から水音が聞こえる。
まもなく、朝食が運ばれてきた。
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