「はあ、疲れた」
「少し、休むといい」
「こんなに、疲れるものだと思わなかった」
「初めてだというのに、随分と激しくしてしまった。すまない。
次は優しく抱こう」
「次?」
「ああ、次だ。最初に言ったはずだが、回数で補って貰おう」
女は少しぎょっとした顔をした。
「男の人って、あまり何度も出来ないって聞いたんだけど」
「どうやら出来る奴と出来ない奴がいるらしいが、俺は前者でね」
「ッ……!」
「大丈夫だ。優しくするから」
「ほんとう……?」
「そういえば俺は、まだキミの名前を知らない。
いつも名乗らないものだから……」
「……必要、ある?」
「あるさ。優しく抱く時には、耳元で名前を呼びたいじゃないか」
「そう……」
こうして我々は、空の色が変わるまでありったけ交わった。自分は大変満足したのだが、些かやり過ぎたと言うか、付き合わせてしまったように感じる。
朝がくれば、自分はまた泥にまみれて這い上がる一人の敗北者に戻る。彼女は、真っ直ぐな目をした負けなしのチャレンジャーに戻る。そう思うと、ずっと夜が明けなければいい、と子供のような事を思ってしまう。
疲れ果てて眠る女の髪を撫でて、囁いた。
「おやすみ、……」
~ 9 ~