ボンジュール! ……えへへ。これは最近教えてもらった他の国の挨拶。最近は、ほかの国に行くことも多い。困ったときは、通訳の団員さんに聞くようにしてる。
わたしの仕事は、相変わらずボスの護衛。ボス自身が狙われる事は、国にもよるけど、無いわけじゃない。いつもベトベトンとゲンガーが守ってくれるけど、冷や冷やする。常に集中して、危ない事がないか見回してる。
この国の制圧が終わってから、色んなことが変わった。
まずは本拠地のお引越し。タマムシの空き地に大きいビルを建てて、訓練所も随分立派なところになった。新しく入った団員の人が多くて、毎日てんてこまい。戦闘訓練をする時、相手の名前と使うポケモンがなかなか覚えられない。
ボスのお部屋は最上階に! でも、地下だった昔が恋しいってよくぼやいてる。気持ち分かるかも。あの煙草の匂いに包まれた、一番奥の地下室。ボスの匂いに包まれてるみたいで安心感があったな。
あっ、ボスって言わないんだった。いや、別にいけなくはないんだけど、皆もうボスとは呼ばなくなった。閣下って呼ばれてる。カッコいい呼び方だよね。
エレベーターの扉が開いた。閣下の部屋まで、長い廊下を歩く。カードキーを差し込む。扉が開く。
あまり物のない、シンプルな部屋。大きな机があって、一番奥に閣下の小さい席がある。ペルシアンが床に寝転がって、むにゃむにゃ言ってる。
中に居たのは、マイムさんとアポロさん。お互い何も喋らずに、机に向かってる。
新しくこの部屋の常連になった、アポロさん。マイムさんもわたしも閣下のことは大好きだけど、アポロさんはきっとそれ以上だ。だから、いつも自分と閣下の事以外は何も目に入ってない。今も入ってきたわたしに目もくれず、タブレットをずっと触ってる。
「おや、教官殿」
マイムさんが優しく声をかけてくれる。
「はい! こんにちは、マイムさん、アポロさん」
「お疲れ様です」
「……どうも」
マイムさんは、にこりと微笑む。アポロさんは少しだけこっちを見て会釈してくれた。
アポロさんがカントーに来た。それは本人にとってものすごく嬉しい事だって、マイムさんに教えてもらった。そのはずだけど、普段はそうは感じさせない。クールな人だ。なんとか、仲良くなれるといいな。
「ああ、ペルシアンの手入れなら終わりましたよ」
アポロさんがタブレットから目を離さないまま、教えてくれる。
「本当ですか? ありがとうございます!」
「いえ。感謝される程の事では」
お仕事を終わらせて、閣下の部屋に来て、ペルシアンのブラッシングをするのがわたしの日課だ。ペルシアンの身体は大きくて、けっこう大変だから、やってくれるのはとっても助かる。
「じゃあ、わたしお茶を淹れてきますね」
「助かります」
「ええ、ありがとうございます」
2人が返事をする。紅茶を3人分、まずはお湯を沸かして、ポットとカップをお湯で温めて……。
その時、扉が開いた。誰かが入ってくる。
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