進メ、我ラ火ノ玉

鐘屋横丁

     

「大丈夫か、ミュウツー」
「もう一度は喰らいたくないな。注意しよう」
 そう言って、またサイコキネシスを放つ。ミュウツーが最も手慣れているわざで、この状況で最善と言える手だろう。だが、本当にいいのか。少し嫌な予感がする。
「カメックス、かみつく!」
「ぬうっ……!!」
 ミュウツーの白い身体に、カメックスが牙を剥いてかみつく。こちらにとっては、相性の悪い技だ。ミュウツーが苦しそうに目を細める。
「ハイドロポンプ!」
 カメックスは攻め手を緩めない。ゆらりと動いてなんとかかわしたが、命中していれば危なかった。
 ミュウツーは再びサイコキネシスで応じたが、やはりあまり効いてないようだ。
「一旦下がれ、回復しろ」
「黙れ、私はまだやれる」
「くっ……」
「何だ? まるで言うことを聞いてないのか。そんなトレーナーとポケモンに、俺たちは負けない」
「うるさい。私をただのポケモンと同列に扱うな」
「同じだろ。トレーナーがいて、一緒にバトルして。おっと、お前は言うことを聞かないんだったな。だったらオレのカメックスの方が上等だ」
「む、む、む……!!」
「ミュウツー。挑発に乗るな。お前はお前の言う通り、全ての頂点に立つポケモンだ。誇りを持て」
「どいつもこいつも、ゴチャゴチャとうるさい。いいか、次の一撃で決める」
 カメックスに右腕を向ける。まずい! 明らかな挑発の後には、何らかの策が待っている。何だ。何が待っている。ロケットずつき、かみつく、ハイドロポンプ。ポケモンの同時に使えるわざは4つとされている。まだ1つ枠がある。カメックスの覚えるわざをひたすら思い出した。
 ミュウツーはカメックスの元に飛び込んでいく。カメックスの身体が、ほのかに光を帯び始めた。いかん、ミラーコートだ!
「おい、ミュウツー! 撃つな!」
 ミュウツーは動きを止めない。もう聞こえていないのか、無視しているのか。
 グリーンが、にやりと笑う。ミュウツーが右腕を伸ばすのとほぼ同じタイミングだった。
「カメックス、ミラーコート!」
 カメックスの全身が、虹色に光る——
 ……瞬間、終わった、と思った。だが、わざが発動しない。何故だ。カメックスが光ったっきり、なんの効果も現れない。バチリと音がした。ミュウツーがカメックスの腹に拳を打ち込んでいた。
「これは……かみなりパンチ」
「任せておけ、と言っただろう」
 カメックスの巨体がズシン、と音を立てて倒れた。
「カメックス 戦闘不能 勝者 チャレンジャー」


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