「どうだ、男に、それも自分に抱かれた気分は」
男はベッドに腰掛け、煙草に火をつけた。やはり、自分と同じ銘柄だ。
「痛い。が、そんなに悪いものでもなかった」
「ほう」
「……お前のお陰で、忘れていたものを思い出せた気がする」
「そうか。それは、良かったな」
「元の世界に帰りたい時は、いつでも帰れるんだな?」
「ああ。しばらくは私の側に居て欲しいが、帰るのは簡単だ」
「分かった。すぐには、帰らない。お前の悪巧みとやらの行く末を見せてもらおう」
「最も近くで、見ているがいい。特等席だ」
あの少年に出会わなかったら。負けていなかったら。私はこの男のようになっていたのだろうか。それは、分からない。だが、自信と誇りに満ちていた事は確かだろう。今の自分には、欠けてしまっているものだ。
最後に笑えば、それは勝者だ。男の言葉を心の中で繰り返す。自分の修行の旅はこれからも続く。悪の心はまだ、枯れてはいない。いつか、最後に笑ってみせよう。
男が、煙草の煙を吐いた。良く知っている香りに、辺りが包まれた。
~ 9/9 ~