……僕を呼ぶ、声がする……
人間だ。アイを作り出し、アイを死なせた人間ども。かみさまなんてものじゃ無い。……いや、どこか、違う種の人間のようだ。白衣を着ていない。
ひとりの、男だ。ここでは、見たことがない男。僕の名前を、何度も呼ぶ。そんなに僕が必要なのか。どうしてだろう? 好奇心が勝る。返事をしてやろうという気になった。気に入らない奴なら、相手をやめよう。
「うん。聞こえている。何の用だ、人間」
テレパシーで、言葉を返した。
男は堂々としている。怯む様子も、恐れる様子もない。
「素晴らしい。本当に、会話できるのだな。
私は、サカキという」
「サカキ」
名は、知っていた。科学者達が何度か口にしていた名前だ。尊敬の念を込めて呼んでいる者もいた。
「サカキ。おまえは、強い人間か」
男は、しばし黙った。
「強い人間か。そうだな。そう、周りに思わせているだけの、何でもない人間だ」
「……」
「少し、難しいか。まあ、ここで一番上の人間という意味では、それは私だ」
「……目を、閉じてみろ。おまえを、見る」
「ほう」
男が目を閉じる。こころの、中を見る。見ているものを、男と共有する。イメージを男の脳に流しこんだ。
「これは……。お前の超能力か。私の記憶を、見ているのか」
「そうだ。じっとしていろ」
「好きなだけ、見るといい。私に見られて困るものは、何もない」
……広い大地の記憶から始まった。ポケモンと、旅をしている。時間が経つにつれ、人間との記憶が増えてきた。大きな建物の中に、多くの人間がいる。人間、人間、人間。
場面が変わる。黒い服の人間が集まっている。人間、人間、人間。この男は、とても多くの人間と関わって、その一人一人を記憶に残している。ここの科学者達のことも、しっかり記憶されている。ひとりの女と、闘技場のようなところで向かい合う記憶がみえる。最後にその女の笑顔が見えて、すぐ消えた。
あまりの人間の数に、吐き気を催しそうになった。多くの人間を統べる者は、皆こうなのだろうか。
「終わりだ。……お前は、ここの人間たちとは違う人間のようだな」
男が、目を開ける。
~ 6 ~