注意書き
BW97話「霊獣フォルム総進撃! イッシュ最大の危機!!」を4回見た人の妄想です。
BW97話「霊獣フォルム総進撃! イッシュ最大の危機!!」を4回見た人の妄想です。
計画は完璧だった。メロエッタを捕らえ、神殿の封印を解き、写し鏡を手に入れる。イッシュ地方の伝説のポケモン三体を呼び寄せ、フォルムチェンジを行い、真の力を我が物にする。イッシュ地方は我が手に落ちる。そのはずだった。
「ピカチュウ、エレキボール!」
「!」
ボルトロスの雷エネルギーを帯びた、ピカチュウのエレキボールは、巨大な球体となり神殿を破壊した。砂埃で前が見えない。メロエッタ。メロエッタが台座から消えた。逃げたのだ。何も見えないが、何故か、それだけは分かった。
「……たいか」
背後で男の声がする。
「誰だ!」
声のする方を向いた。そこには、誰も居なかった。写し鏡があるだけだった。鏡を抱えて、覗き込んだ。自分の顔が映る。何も変わった事はない。そう思った瞬間、鏡の中の自分が笑い出した。
「知りたいか。本当の自分が。誰も知らない、本当のお前を」
「!」
鏡の中の自分がニヤリと笑った。……記憶はそこまでだった。気づけば、深い海の中にいた。海の底に向かって、沈んで行く。自分はきっとこのまま、助からないだろう。
「我、求めるは破壊なり」
自分の声が聞こえる。本当の自分とやらが、喋っているのだろう。写し鏡。ポケモンの真の姿を映し出すというが、まさか人間にも効果があるとは思わなかった。
あれが、本当の自分なのか。確かに、何もかもを壊したいと思った事はある。この世界も、ロケット団も、ロケットコンツェルンも。だが、それが自分の真意なのか。
「サカキ様」
「サカキ様」
「サカキ様」
したっぱから幹部まで、あらゆる者の声が聞こえる。自分を求めている声。自分を必要としている声。
「サカキ様」
マトリの声。
「……サカキ」
もうその声を聞く事はない、遠い記憶の母の声。いよいよ、迎えが来たか。このまま自分は、海の底に沈む。あとはあいつが、上手くやっていくのだろう——
「サカキ様!」
身体に痛みが走った。目を開けると、そこは瓦礫の上だった。
「サカキ様、大丈夫ですかニャ」
「お気を確かに」
「身体、支えます」
ニャース、ムサシ、コジロウ。この計画を行うにあたって、連れてきた部下達だ。身体を支えられて、なんとか足が動く。情けない姿だ。だが、皆は何も言わない。
「何があった」
「いいえ、何も」
答えは返ってこなかったが、おおよその見当はつく。あいつに身体を乗っ取られていたのだろう。そしてどういう訳か、そこから救い出された。……あのまま、死ぬものだと思っていた。
「撤収する」
「ラジャー」
飛空艇に乗る。やっと、落ち着いて思考の整理が出来るようになった。
あいつは、本当の自分だと名乗った。だが、そんな訳はない。私の心の、ほんの隅に巣食っていた程度の破壊衝動が顔を出しただけだ。本当の自分など、いない。今こうして指揮をしている自分こそが、唯一の存在だ。
「ロケット団本部へ帰還する。進路はカントーだ」
「ラジャー」
飛空艇の窓から、海を眺めた。