愛の挨拶/歌の翼に

鐘屋横丁

注意書き

カントー交響楽団さんのコンサートに行きました。素晴らしかったです。
美しいサカキ様がバイオリンを弾いていらして、妄想が破裂しました。
一応夢です。長編の夢主。

愛の挨拶/歌の翼に

     

「ニャア」
「ダメだよ、ペルシアン。散らかしたら」
 ボスの部屋のドアを開けると、ペルシアンが色々なものを引っ張り出していた。
 わたし達は、一緒に暮らし始めたばかり。ボスはお仕事を持ち帰ってくることもあるし、遅く帰ってくることもある。大変だ。だから、出来るだけ家のことはわたしがやろうと思ってる。ペルシアンのいたずらのあとを片付けようと思って、部屋の中に入った。本は本棚に。モンスターボールは机の上に。……あれ? これは何だろう。
「何かの、ケース……? わ、重い」
「ああ、そのままでいい。俺が片付けておこう」
 後ろを振り返ると、ボスが部屋の中に入ってきた。
「これ、何? 中身、入ってるの?」
「見たいか」
「うん」
 ボスは、ケースを開けた。これは……バイオリンだ。
「すごい。弾けるの?」
「母親が弾く人間でな。覚えさせられた。弾く機会も無いんだが、なんとなく、捨て辛くてな」
 ボスはケースからそっとバイオリンを取り出して、顎をあてた。弓を握って、メロディを奏で始めた。聞いたことのある曲だ。うん。音楽のことは何も分からないけど、上手いと思う。
 弓を、バイオリンを自在に動かすボスの姿を初めて見た。それはとても美しくて、見ているとなんだかドキドキする。ボスにこんな特技があったなんて、知らなかった。
 じっと聴き入っていると、そのうちボスは演奏を止めてしまった。
「あれ、いいところだったのに」
「これ位で、いいだろう」
「もっと聴きたいよ」
「……。短い曲にする」
「うん」
 ぱちぱちと、拍手をした。ボスは少し照れくさそうに、再び弓を弾いた。きれいな音が鳴る。あまり馴染みがなくて、名前はわからない。でも、素敵な曲だと思った。ずっと聴いていると、心が綺麗に洗われていくような気分になる。
 
「すごいすごい!」
 曲の終わりに、また拍手をした。
「ずっと弾かないと、まるでダメだな。何度も間違えた」
「え、分からなかったよ」
「そうか?」
「もっと聴きたいな。たまに、弾いてよ」
「気が向いたらな」
 ボスはバイオリンを片付けて、ケースにしまった。
「さて、掃除をするのではなかったか」
「あ、そうだった。綺麗にします!」
「うむ。頼んだ」
 そう言って、ボスは部屋から出て行った。ペルシアンの散らばった毛を片付けながら、さっきの事を繰り返し思い出す。今日はいい日だ。ボスの知らない一面が見れた。これから一緒に暮らしていく中で、もっと色んな姿が見れるのかな。そう考えると、毎日がとっても楽しみだ。