だいたいあいつのせい
「サカキ」
「何だ、ミュウツー」
よく見ると、右手に水色の花を持っている。
「この花の、名前が知りたい。道端で見つけた」
「花? お前に花を愛でる趣味があったか」
「いや。名前のあるものは、知っておきたいのだ」
「そうか。今調べてやろう。……出たぞ。ワスレナグサ、という名前だ」
「ありがとう、サカキ」
ミュウツーの興味は多岐にわたる。ポケモンの生態に興味を示す時もあれば、人間についてしつこく聞いてくる時もある。今日のように小さな事が気になる日も少なくない。
「サカキ」
「何だ」
「花には花言葉がある、と聞いた。ワスレナグサに、花言葉はあるのか」
「またか。今度、花に詳しい団員を紹介してやろう。俺に聞くより早いはずだ。……出たぞ。私を忘れないで、だそうだ。そのままだな」
「そうか。ありがとう、サカキ」
「そういう訳だ。頼んだぞ、ラーフ」
「はい、サカキ様。ミュウツー、何でも聞いてね」
「ああ。頼りにしている」
しかし、ミュウツーの興味は止まらなかった。ラーフが任務で居ない時は、結局自分のところに花の名を聞きに来る。
「……ここまで来ると、お前のちょっとした趣味だな」
「シュミ?」
「自分の好きなことだ。まあ、花が趣味というのは、悪いことではない。……出たぞ。ユウゲショウ。花言葉は、臆病だそうだ」
「臆病か。面白いな。生き物みたいだ。ありがとう、サカキ」
「ああ」
「サカキ」
「またか。今日は何の花だ」
振り返ると、ミュウツーは大きな花束を抱えていた。
「ラーフに、教えてもらった。人間はこうやって花を集めて、贈り物にすると」
「そうだな。これは、お前が作ったのか」
「そうだ。少し手伝っては貰ったが、私が選んで、私が作った。受け取れ」
「……ありがとう」
水色と薄紫、白の花が多い花束だった。控えめな色遣いで、涼しげな印象だ。どこか、ミュウツーらしさを感じる。美しいと、素直に思えた。
「……ここ数ヶ月で、俺も随分花に詳しくなってしまった」
「でも、悪いことではないのだろう?」
「まあな」
二人で顔を見合わせて、くすりと笑った。