聖夜のおたのしみ

鐘屋横丁

注意書き

夢主はロケット団幹部です。タイトル通り、クリスマスのお話です。

聖夜のおたのしみ

     

 ある冬の1日。雪が朝から降り続いていた。部屋では暖房をつけていたが、ずっと椅子に座っていると足は冷える。嫌だな。
 そんな事を考えていると、突然、部屋のドアが開いた。
「ウソウソ〜」
「何だ、こいつは」
「わっ、すみません、サカキ様!」
 部屋に入ってきたウソッキーは、上機嫌だ。モミの木の葉っぱ、雪に見立てた綿、沢山のオーナメント、てっぺんには星。どうやら今日はそれらを身につけて、アジト中を駆け回っているらしい。
「ウソ? ウソ?」
 ウソッキーは嬉しそうにガサガサと動く。
「そうか。今日は、クリスマスだったな」
 フッと笑うと、サカキ様は立ち上がり、扉まで歩いてウソッキーの頭を撫でた。ウソッキーの持ち主は安心したように、ふう、とため息をついた。
 側で仕事をしていた私も、ため息をついた。サカキ様、クリスマスも忘れていたんだ。何かを期待していた自分が浅はかに思える。何かと忙しくしている人だから、忘れてしまうのも無理はないのかもしれない。
「失礼します!」
「うむ」
 ウソッキーと持ち主は、扉の向こうにバタバタと駆けて行った。
 サカキ様が、机に向かっている私に近づいてきた。
「……今夜は、予定はあるか」
 耳元で、囁くように優しく問われる。吐息が、耳にかかる。それだけなのに、それが何か、特別な事のように感じてしまって、胸が高鳴る。きっと今、自分の耳は赤い。
「! は、はい! 特に無いです!」
「そうか。では、出掛けるか」
「はい……あの、クリスマス、忘れてたんじゃ」
「とぼけただけだ。部屋はもう取ってある」
 サカキ様は耳元から口を離すと、ニイッと笑った。

 夜になったが、仕事が思うように終わらない。キーボードを必死に叩いているけど、どうしても今日中に仕上げたい報告書がなかなか書き上がらない。
「……」
 机を挟んで向かいにいるサカキ様から、視線を感じる。気まずい。あと少し、あと少しなんです……。
「おい、まだ終わらないのか」
 少し、イラついている声だ。ヒヤッとする。
「すみません……」
「いい。月曜に回せ」
「でも……」
「構わん。私が許す」
「はい。申し訳ありません」
 立ち上がって、頭を下げる。……足音が近づいてくる。頭を上げると、サカキ様がすぐそばに立っていた。
「お前は、良く働く」
 サカキ様が、私の頭の上に手を乗せる。軽く撫でられてる。褒められた。嬉しさと、突然の事への驚きで、胸がドキドキする。
「は、はい」
「だが、今日はせっかくのクリスマスだ。仕事より、私はこっちが良い」
 私の肩に両手を乗せて、サカキ様の顔が近づいてきた。目が回りそうだ。その先に待ち受けているサカキ様の行動に、目をぎゅっとつむる事しか出来なかった。
 ……軽く触れるだけの、優しいキス。柔らかな唇。少し、煙草の味がする。
 時間がずっと、止まったように感じる。他に、何の音も聞こえない。ただただ、自分の胸の鼓動だけが、うるさい。
 唇が離れた。サカキ様はいつもより優しい顔をして、私を見ている。
「さあ、続きは後のお楽しみだ」
「……っ」
 ああ、だめだ。何も言い返せない。言葉が出て来ない。顔が熱い。
「君は反応がいい。新鮮で。今夜も私を、楽しませてくれ」
 サカキ様は、そう言うと自分の椅子に戻った。
「は……い」
 やっと返事が出来た。冷静になろう。書きかけの報告書を保存して、パソコンの電源を落とした。胸は、まだずっとドキドキが治まらない。
 
 この後は、どうなってしまうのだろう……。