あなたを知りたくて

鐘屋横丁

注意書き

サカマトです。付き合ってます。
先代ボスについて軽めの捏造があります。

あなたを知りたくて

     

 ロケット団には、かなり古くから仕えている者も存在する。たまに、先代の頃はこうだった、という話を聞く。時には、あの頃は良かったという話も。
 今まで気にも留めて居なかったが、先代ボスがサカキ様のお母様だという話を聞いた時は胸がドキンとした。それからは、知ってそうな団員に会っては、詳細を聞き出した。
「綺麗な人だった」
「とにかく美しい人だった」
「ある日突然居なくなってしまった」
「まだ若かったサカキ様は、随分憔悴していた」
 知らない事ばかりだ。私の知らないサカキ様。もっと知りたい。サカキ様の事なら、なんでも知っていたい。
 資料室に行った。番人であるロトムにデータを検索させた。
「古すぎて資料が存在しませ〜ん」
「紙でも、いいわ。写真の一枚くらいあるでしょ」
「見つからない〜」
「もっと根気良く探しなさい! 詳細検索!」
 ロトムを怒鳴りながら棚を漁っていると、背後から足音がした。
「こんな所に居たのか。探したぞ」
「サカキ様!」
 胸がどきりと音を立てる。
「何を探しているんだ? 手伝おうか」
「いえっ! 大丈夫ですっ!」
「どれ。検索履歴を見せなさい」
「先代ボスについて検索していました〜」
 ロトムが余計な口を開いた。ああ、何だか恥ずかしい……。
「先代ボス? 私の母に、何かあるのか」
「その……とても……美しい方だと、聞いたので」
「ふむ」
 サカキ様は、黒く美しい瞳をこちらに向ける。この瞳の前では、嘘が吐けない。ついつい余計なことまで、話してしまう。
「写真を、拝見したくて。私なんかでは、とても及ばない方だと思いますが、少しでも……近づきたくて……」
「そうか」
 サカキ様は私に近づくと、頭の上に手を乗せた。
「確かに、私の母は美しい人だった。あれだけ美しい女を抱いてみたいと、若い頃は、よく探していたものだ。だが、どんな女を抱いても違うとしか思えなかった。その事にしばしば、苦悩もした。若気の至りだな。
 結局、母は私の思い出の中にしか存在しないのだ。
 今はもう、面影を追いかけることはしない。私が好きな女を、選ぶだけだ」
「……」
 サカキ様は、顔を近づけてきた。突然の事に、胸がドキドキする。
「マトリ。誰かになろうとするな。お前はお前のままが、一番美しい」
「……ありがとうございます」
 真剣な顔で、そう言われた。嬉しい。褒められてしまった。顔が、きっと真っ赤だ。胸の鼓動がずっとおさまらない。
「さあ、行こう。今夜は、いい月だ」
「はい!」
 サカキ様に手を取られて、資料室を後にした。