太陽と月

鐘屋横丁

注意書き

スペサカキ様の誕生日(2023.8.1)に書きました。おめでとうございます!
ナツメがサカキ様に誕生日プレゼントを渡す話です。第一章。

太陽と月

     

 季節は、夏。
 照りつける灼熱の太陽のごとき情熱を、確かに胸に抱いているあなたに。あなたなしでは決して輝けない、月のような私から。
 
 扉をノックした。
「入れ」
「失礼します」
 アジトの最深部の、小さな部屋。サカキ様は椅子に腰掛け、研究室の資料に目を通している。
「ナツメか。どうした」
 資料から目を離さずに、サカキ様は私の名を呟いた。
「……今、お時間よろしいでしょうか?」
「構わん」
 サカキ様が資料を机に置いて、こちらを向く。にわかに、緊張が走る。……ええい、大した用事ではない。すぐに終わりにすればよい。
 左手を、ぎゅっと握りしめた。
「サカキ様。お誕生日、おめでとうございます。
 こちら、大したものではありませんが、受け取って頂けると幸いです」
「……」
 サカキ様は、驚いている様子だった。唐突だったかしら。まあ、でも、誕生日祝いなんてそんなものだし。
「……そうか。そうだったな。この年になると、あまり人に何かを言われる事も無い。すっかり忘れていた。ありがとう」
「はい」
 良かった。受け取ってもらえた。
「中身を、開けてもいいか」
「どうぞ」
 サカキ様が箱を開ける。中に入れているのは、濃いグリーンのハンカチ。
「ふむ。悪くないセンスだ」
「それから、……これを」
 小さな包みを差し出した。サカキ様は、それもすぐに開ける。
「これは?」
「お守りです。我らの大願成就を祈って」
「フッ。意外だな。お前はこういうものには、頼らないと思っていた」
 小さく笑われてしまった。面白いものを見るような目が、こちらに向けられる。やや恥ずかしい。
「部下の好みすら分からんようでは、俺もまだまだかもしれないな」
「いえ。そんな事は……」
「お前さえよければ、今晩、食事に行かないか。もっとお前の事を教えてくれ」
「!」
 突然のお誘いに、返事が出来ない。言葉が紡げないまま、口がぱくぱくと動いてしまう。いつの間にか、私が驚かされている——
「フフフ」
 サカキ様は楽しそうだ。さっきより、もっと、面白いものを見るような目をしている。
「い、行きます。行かせてください」
「決まりだな」
 ふんわりと、優しく笑う。ああ。いつまでも見ていたい笑顔だ。プレゼントを渡せてよかった。渡してよかった。願わくば、ずっとこのお方に仕えていたい。