灰色の雨

鐘屋横丁

注意書き

サカムサです。R-18です。何をどうやってもくっつかない謎CPなの最高です。

灰色の雨

     

 無駄のない部屋。あたしはまずそう思った。いつもなら通信機越しに眺めてるボスの部屋で、指示を待つ。
 部屋にいるのはあたしと、サカキ様と、ペルシアン。しばらく沈黙が続いて、サカキ様がやっと口を開いた。
「コーヒーを淹れてくれ」
 また随分な命令ね。そんなのはおかっぱ眼鏡にでもやらせて欲しいわ。
「お前の分も淹れろ」
 部屋の奥にいくと、一通りの器具は机の上に出ていた。
 げっ、ドリップ式。インスタントじゃないの。あまり使った事ないから分からないわよ、こんなの。見た目が黒ければいいわよね。適当に作りましょ。
 見よう見まねで淹れたコーヒーを2つ持って、ボスのところへ戻った。
「……」
 ボスは何も言わない。何も言わないでコーヒーを飲んでる。自分でも飲んでみたけど、まずまず美味しかった。ちょっと濃いかな? どうです? サカキ様。黙ってるばっかりで、全然わかんないんですけど。
「何も恐れる事はない。気にするな。全ては些事だ」
 サジってスプーンの事かしら。やっぱり濃すぎた?
「ムサシ。今夜、空いてるか」
「空いてますけど」
「お前の好きな店に行こう。私の奢りだ」
「いいんですか!?ありがとうございます!」
 わーい! コーヒーを淹れただけなのに! 何だかとっても、いい感じ〜!

 行ったのは、いつも行くやっすい居酒屋。従業員がポケモンを連れて手伝いさせてる。
「こんな安酒で酔っているのか」
 サカキ様が心底不思議そうな顔で自分のグラスを見てる。
「そりゃあサカキ様が飲んでるお酒とは違いますよ……」
「別にもっと良い店でも私は構わなかったが……」
「いーえっ!あたしはここがいいんです。」
「そういうものか」
 店内は満席で、少し暑かった。店員のムチュールがこなゆきを吹いて、涼しくなった。
「雪か〜。昔はよく雪が降るとお寿司を食べたんです」
「寿司?」
「はい。シャリもネタも雪で作って、今日はごちそうだってはしゃいだなあ……」
「……そうか……」
 渾身の貧乏トークも反応はいまいち。もう、何なら会話がはずむのかわっかんない! ただ食べて飲んで、それで終わり。あたしと食事して楽しいのかしら?

「今日はありがとうございました!」
「ああ。ムサシ、お前の話は面白い。また飲もう」
 去り際に、やっと笑ってくれた。よかった。あれでいいんだ。黙ってるけど、別につまらない訳じゃないんだ。サカキ様のことちょっとずつだけど、分かってきた感じ。
 
「はぁぁーーーー!? サカキ様にご飯を奢ってもらってるーーーー!?」
「うん。何故か」
 ヤマトに話したら、めちゃくちゃ驚かれた。そりゃそうよね。あたしもびっくりするわ。
「どこ食べに行ったのよ……」
「えー、最初は居酒屋行って、次は焼き鳥屋行って、回転寿司も行ったなあ、あと焼肉!」
 ヤマトは深いため息をついた。
「アンタねえ、もう少しサカキ様に気を遣いなさいよ! それ、アンタが行きたいところばっかりじゃない!」
「たしかに」
「おいたわしや……回転寿司で何食べるのよサカキ様……」
 ヤマトは頭を押さえる。お店のチョイス、そんなにまずかったかしら。
「えー、結構楽しそうにしてたけど。こんな所は初めてだって言ってた」
「そりゃそうよ!普段は回らないお寿司を沢山召し上がってるに決まってるわ……!
それで、それだけなの? ご飯奢ってくれるだけ?」
「うん……」
「サカキ様のお考えになる事は、私にも分からないわね……とにかく、あんまり調子に乗るんじゃないわよ」
「へいへーい」
 自慢しようと思ったけど、なんか心配されて終わってしまった。確かに、行く場所はもうちょっと考えようかな。

「ムサシ、今日はどこへ行く」
「今日は……サカキ様が行くところに行きたいです!」
「そうか。たまにはいいだろう。気にいるといいが」
 そう言って連れてかれたのは、街のはずれにある小さなバーだった。
「やあ、サカキさん」
「マスター。元気で何よりだ」
「サカキさんこそ。今日は、また随分なべっぴんさんをお連れで」
 サカキ様よりずっと年上のマスターだ。べっぴんさんってあたしの事?
「部下だ。労ってやろうと思ってな。
ジンリッキーを頼む。彼女には、何か甘めのものを」
「かしこまりました。お酒は大丈夫ですね? では、お嬢さんにはキティをご用意しましょうね。飲みやすいですよ」
「ありがとうございます」
 しばらく待つと、赤くて可愛いカクテルが出てきた。いただきまーす!
「ここは、よく来るんですか?」
「ああ。たまにな。大体、一人になりたい時に来る」
「……」
 サカキ様にも、そういう時があるのね。おかっぱ眼鏡とか、いつも誰かしらがそばに居るイメージだわ。
「どうした、今日は。行きたい店がなかったのか」
「い、いえ。いつもあたしばっかりだから……」
「お前は、そうやって男を振り回すのが良く似合う。お前に連れられて、色んなところに行けて、楽しかったぞ」
「ふ……振り回す……」
「気を悪くしたか? ピッタリの表現だと思うがな」
「いえ!いつもの事なんで——」
「ここは料理も美味いんだ。たくさん食べてくれ」
「わーい! ありがとうございます!」
……振り回す。あたしに、振り回されて笑ってるのは誰? 心の底から。嬉しそうに。ねえ、笑っているのは誰?

——この人じゃない。あたしが一緒に夜を過ごしたいのは。気づいてしまった。でも、今更どうしたらいいの。一緒にいて欲しいだなんて、こんな事、言えやしない。

「ムサシ?」
「はいっ! ごめんなさい、ボーッとしちゃって、ちょっと飲みすぎたのかなー?」
「無理するな」
「……はい」
 サカキ様には、お見通しだ。心配そうなお顔をさせてしまった。

 外は雨が降っていた。サカキ様は、高級そうな黒い傘。あたしはその辺でパクったビニ傘。
「今日は、帰るか」
「……」
帰る……。
今は、顔が見れそうにない。
いつもたくさん食べてこいよって、笑顔で送り出してくれたのに。
気づいてしまった今は。どうしたらいいんだろう。
「どうした」
「いやっ、ちょっと帰りにくくなっちゃって。野宿でもしようかなあ、なんて」
「この雨の中でか?」
「……う……」
「帰る場所が無いなら、来るがいい。ただし、覚悟の上でな。私に子供の面倒を見る趣味はない」
「……はい」
 
 少し歩いて、上等そうなホテルに二人で入った。
 ……こんな所で何をやってるんだろう、あたし。
 でもどうしても、今日は帰りたくなかった。
「雨で寒かったからな。風呂に入ろう」
「はい」
 気持ちが無い人と、こういう夜を過ごした事がない訳じゃない。でも、今日の相手はサカキ様だ。失礼のないようにしないと……。
「好きな男が居るんだな、ムサシは」
「!! あっ……えっと……」
「良い。私も、似たようなものだ」
「サカキ様も……」
「私も帰りたくないところだった。お前と同じだ」
「……」
「私たちは、同類だ。
 本当に大切なものを手にする事ができず、こうして寂しさを手のひらの上で転がしている。
 今だけは、ただの男と女で居よう。いいな?」
「……はい」
 サカキ様は、女の扱いが上手い。話していて、心地が良い。今まで何人の人をこうやって慰めてきたんだろう。
「風呂はいいな。話しにくい事も言ってしまえる。もう少し入るか?」
「いえ、あたしはもう大丈夫です」
 お風呂の温度は少しぬるめだったけど、ちょうど良かった。

「さて」
 裸のまま、二人でベッドに横になった。ドキドキする。抱かれてしまう。ただ、あたしたちのお互いの寂しさを満たすために。
「選んでいいぞ。優しく抱くか、激しく抱くか」
 少し悩んだけど、答えはすぐに出た。
「激しい方でお願いします」
「良いだろう。ムサシ。今だけは、全てを忘れさせてやる」
 唇を奪われた。口の中に入ってくる舌が熱い。息が出来ないくらい激しく口の中を犯されて、あたしはどうする事もできず、サカキ様の腕を強く掴んだ。
 呼吸をするのがやっとの時間がしばらく続いて、唇が離れた。二人の間にぶら下がった柔らかな糸を、サカキ様はぺろりと舐めとった。
「あっ……!」
 耳を舐められた。身体がぞくぞくと反応する。身体をよじって逃げようとしても、後ろからがっちり抱きしめられて離して貰えない。
 丁寧に、それでいて激しく責められる。気持ちいいなんてもんじゃない。感じすぎて、声が抑えられない。
「ふ、うっ……」
「耳が感じるようだな」
 耳元で囁かれると、また身体がぞくぞくする。
 サカキ様の指が動く。次はどこを責められるのかと思って、ドキドキする。期待、しちゃってる。あたし。単純な女だなあ……。
 指が身体をなぞって、胸で止まった。後ろから、揉みしだかれてる。そして、先端を両手でくりくりと弄ばれる。気持ち……いい……
「あっ……はあん……」
「もっと声を出しても良いぞ、ムサシ。女は少し、はしたない位の方がいい」
「はいっ……ああん……気持ちいいです……あっあっ……」
 もう、余計な事を考えてる暇なんかなかった。それがいいから、激しくして欲しかったんだけど、思ってた以上だ。何人の女の人を、こうして虜にしてきたんだろう。
「よしよし。お前は、可愛いな。こっちを向いてくれないか」
「わかりました……」
 サカキ様の方へ振り返る。微笑んでいる。改めて顔を合わせると、なんだか恥ずかしいわね。
「お前の乳は大きいな。乳の大きな女は、好みだ」
 そう言って、今度は口で先端を責められた。身体に快感が、電撃のように走る。びくん、びくんと反応しちゃう……
「あっ……だめっ……気持ちいいですっ……」
「良い。良いぞムサシ。感度の良い女は好きだ」
「やあっ……ああっ……はあ……」
 我慢できなくて、大きな声が出てしまう。激しくして欲しい、とは言ったものの乱暴にされる様子がない。ただ執拗に責められてるだけ。こんなの、誰でもおかしくなっちゃう……。
「そろそろか。準備は出来ているようだな」
「あ……」
 サカキ様の指があたしの秘所に伸びてくる。そこはもう十分に熱を持って、とろとろになっていた。
 サカキ様は避妊具を着けて、あたしの上に跨ると、一気に、入ってきたっ……!
 身体の中があっという間に快感で満たされる。何度も思ってるけど、おかしくなりそう。
 突かれるうちに、快感で頭がいっぱいになる。もう、お風呂に入る前に考えてたような事は頭になかった。
 あたしの心に影を落とすあなたは、誰……。
「はあぁっ!! いいです!! サカキ様っ……!」
「ムサシ。お前も、悪くない。お前は、いい女だ」
「ありがとう……ございますっ……!」
「傲慢なようで、その心は驚くほど無垢だ。酒が入っても変わらない。
 自信に満ちて愛らしい。側に置いておきたい位だ。だが、それも叶わないのだな……」
「サカキ様……」
「良い。夜が明けたら、ちゃんとその男の元に帰れ。いいな」
「はい……あたしもっ、一緒にいれて、楽しかったです……」
 突かれて、突かれて、頭の中がクラクラするけど、なんとか言葉を紡ぐ。
「両思いだな」
 サカキ様が、フッと楽しそうに笑う。
「そろそろ、出すぞ。いいな」
「は……はい……あたし……も……」
 あたしももう、限界だった。早く突かれて、それでもう、頭が真っ白になって——果てた。
「ぐっ……うっ、はぁ……」
 サカキ様の息遣いが荒い。のしかかってくる体重が重い。きっと果てたのね。

「おやすみなさい、サカキ様」
「ああ、おやすみムサシ。明日は早くてな。気にせず眠っていていいぞ」
「いえ、あたしも起きます」
「そうか」
 あたし達は手を繋いで、キスをしてから、まるで恋人同士のように眠った。けれど違う。あたし達の関係はそうじゃない、というのは二人とも分かっている。
 あたしは明日になったら、ちゃんとアジトに帰る。自分の気持ちとちゃんと向き合わないとね。

 外の雨は止んでないようだった。自分のどこか悲しくて虚しい気持ちが洗い流されていくようで、不思議と嫌な気分じゃなかった。