私の愛が欲しければ

鐘屋横丁

注意書き

サカキ×したっぱ団員♀です。名前変換機能付きです。
 
タイトルはアニポケで初登場した時にニャース達に言うセリフなんですが、
素敵すぎて忘れられません。

私の愛が欲しければ

     
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主人公

「みゃおん」
 ペルシアンが鳴く。ご飯の催促だ。私は、急いで準備に取り掛かる。
「ちょっと待ってね」
「みゃあお」
 ペルシアンが返事をする。ちゃんと待つ事が出来る、賢い子だ。
「はい、ご飯だよ」
 お気に入りの皿に、お気に入りのポケモンフード。ちょっと高いやつ。ペルシアンは喜んでフードを口に含む。
「……いいね、お前は」
「みゃお?」
 ペルシアンの毛並みに触れてみる。サラサラのフワフワだ。決まった時間に好きなご飯とおやつを忘れないこと。きちんとブラッシングすること。遊んで欲しそうにしてたら、遊んであげること。それが命令で、私の仕事の一部。
「サカキ様に愛されて、幸せだね」
「なーお」
「いいな。お前になってみたいよ。そうすれば……」
 あの、大きな手で撫でてもらえる。あの身体に甘えかかることができる。機嫌のいい時は、か、顔を舐めたりなんかして……。
「いけない。何を考えてるんだろ」
「本当にな」
「!!」
 ふと気がつくと、サカキ様が後ろに立っていた。ニヤリと笑っている。
「いつから……聞いてたんですか」
「私に愛されて、幸せだという辺りだな」
「あはは……」
 気まずくなって、とりあえず笑って誤魔化す。
「にゃーお!」
 ペルシアンはサカキ様に、思いっきりじゃれついた。腰の辺りにスリスリと頭をこすりつけてる。
「よしよし。この頃は留守番が多くて、すまないな」
 サカキ様はペルシアンの頭を撫でる。ペルシアンは、本当に気持ち良さそう。
「クララ」
「は、はい」
「お前は、よく働いている」
「ありがとうございます」
「私の愛が、そんなに欲しいか?」
「え、ええと」
 ぱくぱくと、口を動かす事しかできない。サカキ様は、楽しそうだ。ペルシアンを撫でながら、面白いおもちゃでも見つけたような顔で、私の返答を待ってる。
「……欲しいです」
 口からやっと出てきた言葉がそれだった。
「そうか。正直だな」
 サカキ様は、つかつかと私の近くにやってきた。何だろう。何をしてくれるのかな。胸のドキドキが止まらない。
「クララ」
「はい……」
 目を、至近距離でじっと見つめられる。真っ黒で、綺麗な瞳。ずっと見ていると、真っ暗闇の中に落ちてしまいそう。これは、恋なのかな。
 サカキ様が、ニヤリと笑った。唐突に、頭を撫でられる。と思ったら、前髪をかき上げられた。あらわになった私の額に、サカキ様は……優しく、キスをした。
「これが、私の愛だ」
「は、はあ……」
 いきなりの事に、頭がパニックになる。額にふんわりと触れた感触を振り返って、今起きた事を何度も噛み締めた。
「少々、物足りなかったかな? キミの仕事はペルシアンの世話だけではないからな。私の愛が欲しければ、仕事で結果を出せ」
「わかり……ました」
「期待しているぞ、クララ」
 サカキ様はニッと笑って、すり寄ってくるペルシアンをまた撫でた。
 
 数ヶ月後。私は、珍しいポケモンの目撃情報を手に入れ、単独でなんとか捕獲に成功した。
「良くやった。色違いのラプラスとはな」
「はい!」
「コレクター相手に高値で売れるだろう。ラプラス自体が希少だからな。オークションが楽しみだ」
「はい! 頑張りました!」
「クララ。これを一人で成し遂げるとは、なかなかだ。
お前はただのペルシアンの世話係にしておくには勿体無いな。捕獲チームに空きがあるか、確認しておこう」
「そんな……! ありがとうございます!」
 努力が認められるのは、本当に嬉しい。相手がサカキ様なら、尚更だ。ずっと下っぱだったけど、チームに入れるなら立派な昇格だ!
「それで」
「はい」
「何か、望みはあるか? 褒美をとらせよう」
「えっ……と……」
 考えられる望みはひとつだ。でも、言うのは恥ずかしい。どうしようかな。無いです、って言ってしまおうか。いや、でもせっかくのチャンスだし、言わないといけないような気がする。
 ただ口をパクパクとさせてるだけの私を見て、やっぱりサカキ様は楽しそうだ。側にはやっぱりペルシアンが居て、ゴロゴロと喉を鳴らしている。
「クララ。欲しいものを、はっきり言え」
「は、はい」
「私はお前の望みを、もうわかっているつもりだ。恥ずかしがる事は何もない」
「……。
 サカキ様の、愛が欲しいです」
 ああ。言ってしまった。下を向いてぎゅっと目を瞑る。どうかな。どう、思われただろう。
「……」
 サカキ様は、何も仰らない。この間のは、全部冗談だったのかな。私はこの間の続きが欲しくて、サカキ様の愛が欲しくて、しょうがなくて、今日までずっと頑張ってきたんだけど……。
「クララ」
「は、はい。 ひゃあっ!?」
 目を開けると、目の前に——目と鼻の先に——サカキ様のお顔があった。
「その言葉を待っていた。やはり、お前は私の考えた通りの女だ」
 また、ぎゅっと目を瞑った。心臓が早鐘を打つ。全部見透かされてたのかな……私の事、どこまでお見通しなんだろう……恥ずかしいな……でも、これでいいんだ……
 ふたりの唇が、重なった。
 優しく噛むように、サカキ様の唇が私の唇を挟んでは離してを繰り返す。しばらくして、唇が離れた。
「んっ……」
「今日は、ここまでだ。続きが欲しいか?」
 頭がぼーっとする。黒い瞳がまた、私を見つめる。……これ以上見つめられたら、落ちちゃう。深いところに。これはきっと、してはいけない恋だ。私の全てを見透かしてる人との、甘いけれど危険な恋。
「……はい」
 それでも、素直に返事をしてしまう自分がいる。
「では、引き続き仕事に励む事だ。
 私の愛が欲しければ、な」
 サカキ様はそう言って、ニヤリと笑った。